中国で、日本式の「スーパー銭湯」が人気を集めている。経営しているのは日本企業だ。

 国内で40店舗のスーパー銭湯をチェーン展開するジャスダック上場企業の極楽湯は、2013年に初の海外店舗を上海に開業。2年後には同じく上海に2号店をオープンさせた。初夏の今はオフシーズンだが、気温が下がる秋冬の週末には入館まで2~3時間待ちもザラという盛況ぶり。

 極楽湯が5月13日に発表した2016年3月期決算によれば、中国事業の売上高は前年度比107.4%アップと倍増し、開業3年で同社の総売上高の2割超を稼ぐ。損益も2年目から黒字。今夏には内陸部の武漢に3号店をオープンする予定で、将来は中国で100店舗を目指すという。

極楽湯の連結売上高の推移(単位:億円)
極楽湯の連結売上高の推移(単位:億円)
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 ここまで読んで「えっ、ちょっと待って」と思う方も多そうだ。

 この1年ほど、中国経済に関する日本の報道で「減速」の二文字を見ない日はほとんどない。今年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は6.7%と7年ぶりの低水準に落ち込み、株価暴落や製造業の不振など景気の悪い話が目白押しだ。日常生活のなかで中国とかかわりがなければ、「中国経済は崩壊寸前」と思い込んでもおかしくない。

肌感覚とマクロ指標のズレ

 そんな中、なぜ極楽湯は好調なのか。

 もし機会があれば、北京、上海、深センなどの中国の大都市をぜひ訪れてみてほしい。週末のレストランやショッピングモールは、一部の高級店を除けばお客さんでいっぱい。朝夕の幹線道路は大渋滞だし、都市間を結ぶ高速鉄道や飛行機もほぼ満席だ。道ゆく人々の表情もおしなべて明るい。肌感覚で測る限り、そう景気が悪そうには見えないはずだ。

 経済指標と街中のギャップの背景には、中国経済の減速と同時進行で起きている大きな構造変化がある、というのが筆者の見立て。製造業からサービス業への、成長エンジンの主役交代が加速しているのだ。

 中国のGDPの産業別の内訳を見ると、サービス業が中心の第三次産業の比率が年々増加しており、製造業が中心の第二次産業を2012年に逆転。昨年ついにGDPの半分を超えた。

中国のGDPに占めるサービス業の比率
中国のGDPに占めるサービス業の比率
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 第三次産業に限れば、1~3月期の成長率は7.6%と全体平均を上回る。サービス業の比率が高い大都市ではさらに鮮明だ。例えば上海では全産業に占める第三次産業の比率が1~3月期に初めて70%を超え、成長率は11.5%に達した。街角に不況感が見えないのも不思議ではない。

 「中国の経済指標は信用できない」と疑う向きもあるかもしれないが、こう考えていただきたい。経済が全体としては減速していても、その度合いは産業や企業によってまだら模様なのが実態だ。中国経済の成長エンジンが製造業からサービス業に大きくシフトするなか、消費者の関心は所有欲を満たす「モノ」だけでなく、価値ある体験を重視する「コト」へと広がってきている。こうした変化の潮流をつかみ、消費者に魅力のあるサービスや商品を提供できる企業にとっては、GDP成長率が高かった数年前よりも、むしろ今の方がチャンスが大きい、と言っても過言ではないのだ。

 本連載では、経済減速下の中国で業績を伸ばしている日本企業に注目し、現地事情に詳しいキーパーソンへのインタビューをお届けする。トップバッターの極楽湯では、本社の松本俊二専務と現場のコアメンバー3人にじっくりお話をうかがってきた。中国の街角景気の実態と合わせて、全4回で余すところなくお送りする。

(※ 本連載のインタビューは昨年12月~今年2月に行いました。筆者の事情により掲載が遅れたことをお詫びします。肩書きは当時のものです)

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