勘を信じる自分と、それを客観視する自分

著書を拝見していると、ジーンが意思決定をするとき、いつも自分を客観視する別の自分がいるように感じます(一歩引いて冷静な判断を下せる)が、それを意識したことはありますか?

ジーン:それはいい質問だね、その通りだ。常に客観的な自分を持っている。それは、よく調べ、学ぶこと。特に今の時代、リサーチする術はいくらでもある。ある企業のCEOに会ったら、その場であっても彼のことをグーグルしてある程度のことは調べられる。彼の言葉が真実かどうかもすぐわかるだろう。

 私は、自分の勘や嗅覚を信じている。それは、闇雲に本能に従うことではない。長年かけて身に付けたリサーチ力や知識があるからこそ、勘も嗅覚も育つ。そういう意味で、嗅覚を大切にする自分と、さらに客観的にそれを見る自分がいるのが理想だ。

そのような能力はどのようにしたら高められるのでしょうか?

ジーン:単純なことだよ。道を渡るとき、左右を確認して渡るだろ? それと同じだよ。子供のときに熱いものに触ったら、次からは気を付けるようになるだろ? 失敗から学ぶ能力さ。失敗が多ければ多いほど、この能力を高めるチャンスがあると思っている。

KISS結成後も、それまでに数々の仕事をこなして蓄えた2万3000ドルの貯金が大いに役に立ったと書籍『ミー・インク』に書かれています。自己資金があったからこそ、外部搾取されない、自前主義を貫くことができ、KISS独自のビジネスモデルを構築できたという面はありますか? 

ジーン:もちろん、そこが一番大きい。お金の面だけでなく、すべてにおいて人を頼らず自分で発信することが重要だ。そして、自己資金があると、最も大切なことに全力で集中できる。余計なことに気を取られなくていい。KISSの場合は、自己資金があったからこそ、音楽に集中でき、自分たちの信じた方向にバンドの将来を導くことができた。

『ミー・インク』を読んで、ジーンの「時間」と「お金」の節約の徹底ぶりに驚きました。「自由時間は全部自分の夢のために使え」「休暇を取るな(特に若いうちは)」「(金銭的余裕がないうちは)結婚するな」「家は買うな」「車は買うな」は印象的です。人は好むと好まざるに限らず、常に競争にさらされていて、それに勝ち残るための早道は競争相手よりも長い時間努力すること、という話は合点がいきます。あとはやるかやらないか。わかっていても、ついつい怠けて実行できない人の背中を押す(あるいはケツを叩く)アドバイスが欲しい。

ジーン:残念ながら、ケツを叩かなくてはならない奴は起業家にはなれないよ(笑)。

ジーンの「時間」と「お金」(あるいは勤勉・倹約)に対する考え方は、母親フローレンスさんの影響を強く受けていると思うのですが、母親の生き方からどのようなことを学んだのか?

ジーン:母は、ナチスの強制収容所のサバイバーだ。14歳の時に連行され、目の前で家族全員を殺され、そして奇跡的に生き抜いた。彼女が私に教えてくれたのは、生き抜くことの大切さ。命さえあれば、あとはチャンスをつかめばいいだけ。そして、チャンスは、自分が作りだせばいい。生きてこそ、だ。

 だから私は、ロックバンドにいても、ドラッグや酒からも距離を置いて自分の命を大切にしてきた。多くの才能あるアーティストは、ドラッグやアルコールで命を落とすかキャリアをダメにしていたからね。

(次回に続く)

ロック界のレジェンドが、手ほどきする本格ビジネス書
KISSジーン・シモンズのミー・インク~ビジネスでドデカく稼ぐための13の教え
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(ジーン・シモンズ著、大熊希美/滑川海彦訳、日経BP社、1800円+税)
 KISSのジーン・シモンズは、バンドの象徴であるフェイスペイントやロゴをいち早く商標登録し、ビジネス化していった先駆者だ。現在では、コミック、棺、アクションフィギュア、テレビゲームなど5000アイテム以上のライセンス商品が世界中で販売されている。さらに、プロのスポーツチーム、レストラン・チェーン、金融ベンチャー、レコードレーベルなどのビジネスにも乗り出している。イスラエルの極貧の家に生まれ、幼少期、英語をまったく話せない状態で渡米。徒手空拳から成り上がったジーン・シモンズは、生き方、音楽、ビジネス、すべてに関して貪欲だった。だが、単にアグレッシブなだけではなく、将来を見通す冷静さと事業マインドも持ち合わせていた。本書でジーン・シモンズは、野心ある起業家に成功のために必要なツール、そして自分というブランド資産を軸としたビジネスを構築する方法について余すところなく手ほどきする。