長門:ド・ゴールの話も面白いですよ。彼がいかに人々に「指導者」としてのイメージを与えるべく努力してきたかを、かなり赤裸々にニクソンは描いています。ド・ゴール自身が指導者への手引き書として『剣の刃』という本を1932年に書いていることにも触れていて、「のちに全フランス人に呼びかけ反ナチ抗戦を指導した神秘な『ドゴール将軍』のイメージを作り上げた技術は、彼が四十一歳のとき出版されたこの本の中に、すべてタネ明かしがしてあったのである」んだそうです。私はまだ読んだことがないんですが、ニクソンによると、その中でド・ゴールが挙げている指導者の資質が3つある。正しい進路を選ぶ知性と本能。そして、「その道を行け」と国民に命じる権威だ、と。

1969年3月31日、ニクソンとド・ゴール(AP/アフロ)

 本能ですか。運が強いとか、星の導きとか…。

「あさっての新聞の見出しになる政治」

長門:要するに、「時代の動きを察する能力」のことだとニクソンは言っています。別の言い方をすれば、今見えている物事の本質は何かを見抜く力、ということになります。その見抜いた本質を「素材」に、知性が味付けして、先見性を持つ施策、進路選択が可能になる。どこへ導くかが、最近よく言われる「ビジョン」ですね。ビジョンを語り、「この人は、我々をどこに連れて行ったらいいのか、ちゃんと分かっている」と信じさせることで、指導者は権威を纏って文字通りのリーダーになっていく、ということでしょうか。

 それに関連してニクソンがこんな事を書いているんです。

 一九六九年に私がフランスに行ったとき、ドゴールは「自分はあさっての新聞の見出しになるような政治をやっている」と、教えてくれた。あまりに多くの政治家がきょうの見出しにこだわり、現在に押されて長い視野の展望を見失う。だが、ドゴールは現在に生きず、逆に現在を利用した。

 うーん、正直、やっぱりトランプ氏を、このクラスの“指導者”と並べるのは無理がありますね。「大統領になること」以上の「やりたいこと」が見えないし、「きょうの見出し」に徹底的にこだわる人に見えますし。

長門:「政治の世界のおとなと子供を区別するのは、まさにその点――子供は偉くなりたいから高いポストを狙うが、おとなは何事かを為すためにそれを望むものである」と。

 それもニクソンが言っているのですか?

長門:ええ。そしてド・ゴールはまさに、ぼろぼろになったフランスを世界の一流国に戻すために大統領になったのだ、と書いています。

 トランプ氏はどうなんでしょう。

長門:米国民が不満の塊と化し、そのはけ口が彼になったことが、彼が大統領に選ばれた大きな要素だと思います。過剰な規制が緩みそうだし、財政支出に前向きなところに期待がかかりますが、今の段階からあまり多くを期待するのは禁物でしょうね。

 動機で言えば、まさしく「偉くなりたい。もっと注目されたい」という人なのだろうなと思います。それで言いますと、ニクソンは何を思いの底に据えて政治家になり、米国の指導者を目指したんでしょうか。

長門:彼は、地盤もない、金もない、全然名門じゃないのに、まさしく「やりたいこと」のために政治家を目指したんだと思う。まあ、自分の本ですから、若干はきれいごとを書いているのかもしれませんけれども、「国のために、人のために」ということじゃないかと。

 ニクソンの悪役イメージからするとまったく反対の思いですね。