指導者とは』(リチャード・ニクソン著、徳岡孝夫訳、文藝春秋)※単行本は絶版のため、文庫本へのリンクになっています

長門:お待たせしました。この本です。『指導者とは』(リチャード・ニクソン著、徳岡孝夫訳、文藝春秋)。

 ありがとうございます。これは見るからに読み込まれた本ですね。日本語版は1986年刊行、原著『Leaders』は1982年。もう30年以上前の本ですか。

長門:彼が大統領に就任したのは1969年。ウォーターゲート事件で失脚するのが1974年でした。この事件のおかげで、米国はもちろん日本でもニクソンは“悪役”イメージが強いんですけれど、僕は嫌いじゃない、いや、かなり好きな人です。会社のマネジメントにかかわる人にも、彼の著作はおすすめです。

 以前もお話ししたと思いますが、どこが好きなのかというと、彼は、一度経験すれば二度と立ち直れなくなりそうな失敗を何度も経験しています。たとえば大統領選挙に打って出てケネディに負け、リベンジしようと出馬したカリフォルニアの知事選でまた負け、と、挫折を何度も繰り返しながら、それでも再起して、誰しも認めざるを得ない業績をあげている。たとえば、ベトナム戦争の終結や、毛沢東、周恩来との会談を果たして中国との国交回復への道を作り、ソ連との緊張緩和(デタント)も達成した。内政でも麻薬対策や環境問題に手を打つなどです。

 しかし彼は、大統領任期中の退陣という前代未聞の屈辱を味わった。

米国大統領が直に会い、書いた「指導者」の人物伝

長門:ええ。さすがにこのときは彼もまいったようで、その様子は『ニクソン わが生涯の戦い』(リチャード・ニクソン著、福島正光訳、文藝春秋、原題『IN THE ARENA』)で赤裸々に語られています。

 それでも、彼が凄いのは、ウォーターゲート事件で政治家生命を絶たれた後も、今度はその深い教養と大統領時代の経験を生かして、執筆活動に励み、数々の著作を残したところです。『指導者とは』は、中でも屈指の名作だと思います。

 米国大統領が語る、第二次大戦を乗り越えた世界の一流政治家の人物論ですね。設定だけでも面白くないわけがない。

長門:しかも、彼の文章は面白いんです。

 登場するのは、ウィンストン・チャーチル英国首相(以下、肩書きは本書籍に登場のもの)、シャルル・ド・ゴールフランス大統領(本の中では「ドゴール」)、ダグラス・マッカーサー元帥、吉田茂首相、コンラート・アデナウアー西ドイツ首相、ニキタ・フルシチョフソ連首相、周恩来中国首相…毛沢東じゃなくて周恩来というところがいいですね。いやはや、豪華絢爛。

長門:ああ、気に入ったところにあちこち線を引っ張っちゃってますね。この本は本当に名著だと思いますよ。前の回でチャーチルの話が出た(「今だから読みたい、チャーチルのリーダー論」)ので、待てよ、彼の話を誰かが猛烈に面白く書いていたぞ、と気づいて、『指導者とは』を思い出したんです。

 ニクソンがいの一番に挙げた指導者は、チャーチルだった。

長門:読んだ当時、アンダーラインを引いた箇所でこんなところがあります。

「私はよく若い人から、公職に立候補して成功するための覚悟について問われる。知性、政治的本能、性格のよさ、自己の主張への信念……いろいろあるが、それを持っている人は多い。ただ、政治家として成功する不可欠な条件、すべてを得るためにすべてを懸ける用意のある人は、きわめて少ないのである。敗北を恐れる者は、一流の政治家たり得ない。猪突猛進はいけないが、大胆でなければやっていけない。資金も潤沢、党本部の支援もあり、世論調査も有利だ。だから立候補したいという人には、私ははっきり、『やめなさい、あなたは成功しません』と言う。政治家チャーチルは生涯一貫して大胆だった。時には猪突もした。だが、一度も、敗北を恐れなかった」

 なるほど。「なれるからなる」ではなくて、「なれなくてもなる」くらいな人が政治家になるべきだ、と。

長門:この本は本当に面白かった。自分なりにまとめて言うと、マイノリティであろうが怖じ気づかずに勝負に賭ける大胆さ、思うことを伝えて、人を動かす能力、そしてもうひとつ、これはド・ゴールにもマッカーサーにも共通するんですが、この手の人は平時には受けなくなるんですよ。

 「嵐の中で輝く男」だから。