日本郵政社長の長門正貢さんに、ご自身の読書録をお聞かせいただく本コラム。いつもは、これまで読まれた本の中から、経営や自己の成長に役立ったものについて伺っているが、今回は特別版として、米国通の国際派である長門さんに、「もしトランプが大統領になったら…」を、本を(ちょっとだけ)絡めてお送りする。(文中敬称略)

 ちょうど前の週(10月6日~)、世界銀行の総会で渡米されていたそうですね。

長門:はい、もちろん大統領選挙の話をしに行ったわけではないですけれど、折に触れてその話にはなりました。米国留学時代の同級生、国務省や財務省に勤めていた友達が11人、「ナガトを歓迎しよう」と、家族を連れて集まってくれたのですが、ディナーが日曜(10月9日)の夜だったんですよ。

 2回目のディベートの日ですね。

長門:そうなんです。現地で夜の9時から。「お前には悪いけれど、見たい」とみんな言うんですよ。「遠くから来た僕より大事なのか」「うん、トランプが大事だ」と(笑)。結局、9時15分に解散になって、悪いことをしました。僕は9時半から、おしまいの11時まで見ましたよ。

 印象はどうでしたか。

サマーズ曰く「シリアスさはだいぶ低下した」

長門:Anything can happen. ブレグジットもそうでしたよね。だから、まだ可能性はあるけれど、確率としてはだいぶ落ちたと思いました。なにか状況をひっくり返す隠し球があるかもと思ったけれど、どうも、ここまでではないかな、という印象でした。

 これは米国の金融・財政関係者も同じことを言っていました。元財務長官のローレンス・サマーズに3回、この件を聞く機会があったんです。5月に米国西海岸のパーティで、壇上で司会者に聞かれたときは、むにゃむにゃいいながらも「分からない。五分五分よりちょっと低いくらいかな」と。でもこの前、9月末に来日したときに聞いたら「その質問は、もはやシリアスさがだいぶ低下したと思っています」という答えに変わっていました。トランプの可能性はせいぜい3割だと。

 そして世銀総会の最終日のイベントで、またサマーズが出てきて、同じ質問が出たら「もう、ほとんどその可能性はない」と言い切っていました。

 ひと安心でしょうか。

長門:でも、「あわやというところまでトランプが支持を集めた」というインパクトは米国に永久に残ります。“ヒラリー大統領”になったとしても彼女の4年間の政治スタイル、政策に影響がないわけがないです。米国は経済成長と人口増を続けてきた国ですが、その中で「負けてしまった」人がいる。それがリーマンショック以降顕在化し、とくに製造業で働いていて、インカムが増えない層の不安が勝っています。これもブレグジットと似ていますね。グローバル化、国際貿易、移民増加などの利益を受けることができなかった人々が、トランプをサポートしている。これが今回の大統領選挙のひとつの教訓。

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