「ナビスコおじさんが働きに働いて作ったすばらしい会社を、弁護士や、投資銀行たちが寄ってたかって、わけのわからない会社にしてしまった」。当時すでに猛烈な勢いで始まっていた、金融が産業を支配する構造変化に、著者たちは不信と怒りを表明しています。
だけど、これは僕が金融業界の人間だからかもしれませんが、そこに至るまでの515ページ(※)に、アメリカのダイナミズムを感じるんです。(※編注:日本語版では上巻448ページ+下巻394ページ)
投資銀行、エクイティファンドは「ドアの前の野蛮人」ではなく、市場を作った人々だと思う。市場は、たとえば「綿と鉄の交換」みたいに、お互いに別の需要を持つ持ち主同士を、貨幣を仲介させることで交換可能にして、社会の効率を、生産性を引き上げた。それで言うと、エクイティファンドは、「企業の市場」を作ったわけです。経営力があれば、具合が悪くなった企業を安く買って再建することもできる。企業そのものが市場で売られ、それをマネジメントする経営者も能力次第で売れる時代を作った。
米国の経済システムそのもののように聞こえる今のお話も、この本、とくに上巻を読むと、90年代までは意外に「日本的」な雇用・経営慣習が米国でもあったんだな、と思えます。ところで、この本は1989年に書かれているので、LBOが成功だったのかどうかは評されていないのですが、結局どうだったのでしょうか。
実はこの騒動を“横”で見ていました

長門:この本が書かれた後で、ルイス・ガースナーが経営者として招かれるんです。彼はその後、IBMに転じて、あの有名な『巨象も踊る』を書くわけですが、その中で「翻って考えると、RJRナビスコの買収価格は、さすがに高すぎた」という趣旨の発言をしていたと思いますよ。
LBOは買収先の現資産と将来に見込めるキャッシュフローを担保に買収資金を調達する仕組みで、買収に成功すれば、その借金はRJRナビスコが抱えることになるわけですから、買収価格が高すぎれば、過大な借金にあえぐことになるんですよね。
長門:ガースナーも経費カットなどでいろいろ弄るけれど、うまく行かない。そのくらい高い値段を提示したから、KKRが勝てたわけですけど。ということは、LBOは成功したけれど、経営上は失敗例ということになるかもしれません。
この買収当時、長門さんはどちらにいらしたんですか。
長門:当時は、日本興業銀行が100%買収した米国債(プライマリー・ディーラー)証券会社ランストンに出向中で、ニューヨークにいました。実は、この話もすぐ側で興奮して見ていたんです。
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