『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fgp%2Fproduct%2F4140051612%2F&tag=nikkeibusines-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">野蛮な来訪者 -RJRナビスコの陥落</a>』(ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー著、鈴田敦之訳、日本放送出版協会)
野蛮な来訪者 -RJRナビスコの陥落』(ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー著、鈴田敦之訳、日本放送出版協会)

 今回のお題は『野蛮な来訪者 -RJRナビスコの陥落』。日本でこの翻訳本が出たのは1990年の秋、バブル絶頂期の余韻がまだまだ強く、まさかこれから、長い長い閉塞感と不況が始まるとは思いもしない時期の本ですね。

長門:原題は『Barbarians at the Gate/ The Fall of RJR Nabisco』。レバレッジド・バイアウト(相手先の資産を担保に資金を調達する買収、LBO)によるものでは当時史上最高額、250億ドルの企業買収となった、1989年のRJRナビスコを巡る大騒動の内幕を描いた本ですね。勝者となった投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と、その経営者であるヘンリー・クラビスの名前が、これで世界に轟きました。ニューヨークにに赴任中、ずっとベストセラーになっていたのでたまたま手にし、原著で読んだ本でした。

こちらが原著
こちらが原著
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 長門さんが前回「いわゆるpage turner、めくる手が止まらなくなる本ですよ」と激賞されていたので、ぜひ読んでからお話を聞こうと思っていたら、もう絶版のようです。古本でもけっこうなお値段が付いていました。

長門:で、どうでしたか。

“無責任社長”が仕掛けたLBO

 むちゃくちゃ面白いです。

長門:そうでしょう!

 前半はRJRナビスコを率いたロス・ジョンソンという経営者の評伝、後半がそのRJRナビスコを巡るLBO合戦の実録という形で、内容がくっきり分かれますが、どうして食品会社のナビスコとタバコ会社のRJRが合体したのかとか、そもそもロス・ジョンソンがなぜLBOに踏み切ったのかが分からないと、後半の興趣も薄れるので、うまい構成ですね。

長門:筆者はウォールストリート・ジャーナルのベテラン記者で、100人以上にインタビューして「関係者ほぼ全員に話を聞いた」とのことですね。

 取材力が凄いのに加えて、自分の不利になりそうなことでも、終わったことについては関係者が堂々と話をするのが興味深いです。

長門:登場人物では、やっぱりRJRナビスコの社長、ロス・ジョンソンが面白いですよね。株価を上げたくて、もともと興味の無かったLBOに着手したばっかりに、大変な目に遭う。

 ロス・ジョンソンは先輩の経営者に気に入られるのがうまくて、出世すると、今度は内輪のお気に入りたちと、飲み明かしながら派手な企画を決めていく。役職上の特権がなにより好きで、なかでも自家用ジェットが大好きで。

長門:「RJR空軍」と揶揄されるくらいたくさん会社に保有させる。スポーツ選手や芸能人との派手な付き合いのために会社のお金を派手に使う。

 なんだか、映画「無責任シリーズ」の植木等演じる人物みたいに描かれていますが、欲望に正直な姿がなぜか憎めません。

長門正貢(ながと・まさつぐ) 日本郵政社長。1948年生まれ。1972年4月日本興業銀行入行、常務執行役員を経て2002年にみずほ銀行常務執行役員。2003年みずほコーポレート銀行常務執行役員。2006年6月富士重工業専務執行役員。同社取締役専務、副社長を経て、2011年6月シティバンク銀行副会長。2012年1月同社会長。2015年5月ゆうちょ銀行取締役兼代表執行役社長、2016年4月より現職。(写真:的野弘路)
長門正貢(ながと・まさつぐ) 日本郵政社長。1948年生まれ。1972年4月日本興業銀行入行、常務執行役員を経て2002年にみずほ銀行常務執行役員。2003年みずほコーポレート銀行常務執行役員。2006年6月富士重工業専務執行役員。同社取締役専務、副社長を経て、2011年6月シティバンク銀行副会長。2012年1月同社会長。2015年5月ゆうちょ銀行取締役兼代表執行役社長、2016年4月より現職。(写真:的野弘路)

長門:描き方が、容赦がなくて明快ですよね。LBO合戦はもうひとりの主人公、KKRのヘンリー・クラビスが勝つんですけど、それでも一筋縄ではいかなかった。予想外の第三者の乱入で、一旦はロス・ジョンソン側に敗れかけたクラビスが復活し、最後に勝利する。物事の勝利というのは「必ず勝つ」ことはない。あくまでも結果。だから、ディールを最後まで諦めてはいけないし、努力し続けなくてはいけない。

 この本は湾岸戦争のころですから、1991年に読みました。本当に面白かった。大著ですけれど、哲学が書いてあるのは最後のページだけです。

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