長門:でもその次に、やっぱり人に伝えるには表現力が要る。チャーチルの反対側にいたヒトラーにも、ロジックだけでなく表現力があったから、ほぼ欧州全土を制圧するまでの戦争ができたわけですよね。

 その、表現力の奥にあるのは、必ずしも論理じゃない。むしろその人個人の情緒的もの、想い、心情や、経験、宗教観などではないかと思います。自伝を読むと、ニクソンもそうだった。小倉さんも経営者の条件の中に「ネアカ」な精神の持ち主であることを入れていますし、彼は敬虔なキリスト教徒だったそうです。

 『チャーチル・ファクター』を読んだ限りでは、チャーチルの精神の奥底にあったのは、自由主義への熱狂的な信頼、そして、やはり政治家であった父親を失望させた記憶と、その死んでしまった父の、愛情や信頼を取り戻したい、という熱望だったのではないか、と。

著者は「チャーチルになりたい」?

長門:相当面白そうな本ですね。著者は誰なんですか。

 それが、元ロンドン市長のボリス・ジョンソンなんです。原著が出たのは2014年です。

長門:EU離脱派のボスですか。ああ、じゃあ、この本は、当然、含みがあるわけですね? ボリス・ジョンソン本人がどんなものを精神の奥に潜めているかは、本から伺えるんですか。

 最後のほうでしっかり「チャーチルも分離派だった」とアピールしていますし、どこかで、自分とチャーチルを重ねたいと思っているフシは感じます。

長門:自分が首相に立候補したいわけですね。彼はたしかキャメロンの、オクスフォードの先輩で。

 しかもジャーナリスト出身なんですよ。チャーチルの経歴と重なります。

長門:じゃあ、「俺の出番だ。俺は21世紀のチャーチルなんだぜ、分かってる?」と言いたいんでしょうね。なるほど(笑)。

 そういう企みは感じるとしても、すごく面白い本なのは確かです。彼がチャーチルになれるかどうかは分かりませんが。

長門:「こういうことをしたい」「こうあるべきだ」じゃなくて「チャーチルになりたい、首相になりたい」しか、彼の奥底になかったら困りますね。そうでないことを祈りましょう。『チャーチル・ファクター』は読んでみたいです。相変わらず「読書の時間はありません」が(笑)。