私は自分が「あの男」(ヒトラー)と交渉に入ることが自分の責務かどうかについて、ここ数日間、熟考してきた。

 しかし、いま平和を目指せば、戦い抜いた場合よりもよい条件を引き出すことができるという考えには根拠がないと思う。ドイツ人はイギリスの艦隊を要求するだろう。武装解除という名目で。海軍基地なども要求してくるだろう。

 イギリスは奴隷国家になるだろう。モーズリーや同様の人物の下で、ヒトラーの傀儡となるイギリス政府が立ち上げられるだろう。そうなったら、われわれはどうなるか? しかしわれわれには巨大な備蓄や強みがある。

(中略)

 私が一瞬でも交渉や降伏を考えたとしたら、諸君の一人ひとりが立ち上がり、私をこの地位から引きずり下ろすだろう。私はそう確信している。この長い歴史を持つ私たちの島の歴史が遂に途絶えるのなら、それはわれわれ一人ひとりが、自らの流す血で喉を詰まらせながら地に倒れ伏すまで戦ってからのことである。

(『チャーチル・ファクター』33、34ページより引用)

 こう彼が言った瞬間に、みんなどーっと拍手をして、全員、ナチスと戦う気持ちになったと。

長門:「歴史は大きな河で、個人のできることは知れている」という見方もありますが、この本の著者は、いや、個人の力が大事なんだ、その人の言葉が大事だ、と考えているわけですね。

小倉昌男が語る、経営者の条件

 当時の英国政府の要人たちが考えていたように、短期で見れば、英国はナチスと組んだ方がよかったのかもしれない。実際、英国は第二次大戦で国力を失い、ヘゲモニーが米国に移りましたしね。

長門:もちろん、長期で考えればナチスと組むことはあり得ない、と、いまの我々には思えるけれど、その場に居たら、戦争という決断を下して、そちらに引っ張っていくリーダーというのは、「never never never give up」と言える胆力と、説得力が必要でしょう。

 ナチスは根本的に攻撃的かつ報復主義的で、民主主義国と長期的な関係を組める可能性がない、ということは、冷静に考えれば分かるのでしょうけれど、拒めば戦争で、確実に大損害が出る。数万人規模の犠牲を是とすべきだ、と、理屈のみで政治家や国民を説得するのは…。

『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4822241564/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4591128601" target="_blank">経営学</a>』小倉昌男著、日経BP社
経営学』小倉昌男著、日経BP社

長門:当たり前なんですけれど、政府にしても企業にしても、リーダーには絶対、論理性、ロジカルな能力は要るんですよ。まずは、自分の主張を相手にきちんと説明することができないとダメです。ヤマト運輸の小倉昌男さんが書かれた『経営学』の中に、「経営リーダー10の条件」という章があって、筆頭に「論理的思考」を挙げています。

 なるほど。

長門:論理は必須です。彼がロジカルに考え抜いたから、「宅急便」のサービスが生まれた。

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