長門:というと?
まず、彼は猛烈な読書家で、古典から何から重要な本を片っ端から読んでいて、しかもいい文章や詩が全部頭の中に入っているので、題材に応じてそれがぱっと出てくる。そして、彼は本にしてもスピーチにしても、基本的にまず全部口述する。それを筆記するスタッフが常時待機している。チャーチルは、彼ら彼女らが書き取ってタイプしたものを見て、それを推敲しながら原稿を作っていく。
長門:なるほど。
しかも、家の中には6万冊の蔵書と6人ぐらいのリサーチャーを置いていて、24時間体制で、チャーチルが「あれはなんだっけ」といったら関連資料をがーっと引きずり出してくる。
長門:マンガの『ゴルゴ13』の制作スタッフみたいなものでしょうかね。チャーチルのスピーチや原稿を作るためにチームがいるわけですね。
ええ、いわゆるスピーチライターがいるんじゃなくて、しゃべるのに必要なことを調査し、しゃべったことを全部記録する。原稿の中身は全部チャーチル。ただし、音声認識装置付きの人力グーグルみたいなものがバックにあった。
長門:そのための建物や資料収集、もちろん人件費も膨大だったはずですが、彼はお金はあったんですよね。当時、英国でアメリカ人の資産家と結婚するというのが流行で、チャーチルのお父さんも、アメリカ人の資産家と結婚したんですよね。
個人は歴史を変えられるのか
そうです。よくご存じで。
長門:「ダウントン・アビー」を見ていますから。
ネタ元は「ダウントン・アビー」(笑)。チャーチルのお母さんも資産家なだけでなく、ステージママ的なところもあって、彼が従軍記者になったときに、話題性のある戦場に行けるように、裏工作をしまくったとか、書いてありました。
長門:なるほど。ちょっと気になるのですが、タイトルの「ファクター」というのは、どういう意味なんですか。
チャーチル的要素…かな?
長門:もちろんそれは分かるんですけれど、どういう意味で書いているの?
副題が『たった一人で歴史と世界を変える力』なんですね。
長門:なるほど。
これはこの本の著者が書きたいことだと思うんですけど、1940年の5月、フランスがナチスドイツに蹂躙されて、英国本土攻撃も時間の問題、「ヒトラーとどう妥協するか」が英国政府の本音になっていたときに…
長門:チャーチルが1人で、「ナチスと組むなんてことはあり得ない」と言っていた。
そうです。彼の演説が英国議会の状況をひっくり返した。チャーチルという人がそのタイミングにいたことが世界を救ったんだというのを、この本の作者はすごく書きたいわけです。
長門:それでチャーチル・ファクターか。どんな演説をしたんでしょうね。
ちょっとこの本から引用させていただきましょう。
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