回り道、とはちょっと違いますが、国際派として知られてきた長門さんが、ゆうちょ銀行に行かれたり、日本郵政のトップになる、ということも、かなり意外でした。

長門:日本のためでもあり、海外、グローバルでの経験や知識が活かせる仕事があれば、もう一働きしてみたいと思っていたんですけれど、声を掛けていただいて初めて気付いたのですが、実はゆうちょ銀行や日本郵政は、ドメスティックなようでいてそういう仕事ができるんですよ。ゆうちょの資金をどう動かすかは、日本の金融界の大きなテーマですし、それに自ら携われるというのは、これは運命だな、チャンスじゃないかと思ったんですよね。

日本郵政グループは、資金運用以外にも大きな課題や、一筋縄ではいかないステークホルダーがたくさんあります。落下傘で降りたような不安はないですか。

長門:新人社長にとっては、未経験のことや大きな問題はいくつもあります。これは周りの方から勉強して努力するしかないんです。苦労すると思います。そういう面だけならば、僕が社長でなくてもいい、もっとうまくこなせる方もいるでしょう。でも、マネーの世界で勝負する商売人としては、僕は適格者のひとりではないのか。もちろん、市場が相手ですから負けることもあるかもしれませんよ。でも勝てそうな商売人、プロの金融マンとしては僕も貢献できるのではないかと。

 2万4000の郵便局とそこにいるお客様の口座が、ゆうちょ銀行の中で1億2000万あります。だから、我々は「スーパーリージョナル」な企業ですし、そして「スーパーグローバル」でもある。なぜかといえば、運用をグローバルに深掘りしない限り、この会社はもうかりませんから。

 僕を雇った人から見れば、僕の未経験なところとか、検証されてないところというのはコストです。プラスのベネフィットは、商売で勝てるかもしれない人だ、ということなんです。幸い、個人としてはもう偉くなる気もお金を儲ける野心もありませんから、この立場にいる間は、お客様と、従業員のみなさんにとっていいことだけを考えてやっていくつもりです。

繋がっていた“回り道”

日本密着の事業である一方で、金融市場を通してグローバルな企業だったと。

長門:来てみたら、英語を使う機会がものすごく多い会社だったのですよ。ジェイミー・ダイモン(JPモルガン・チェース会長兼CEO)も、ブラックロックのトップ、ラリー・フィンクも来るし、KKRのヘンリー・クラビスも僕の会社に来るのは初めてだし。それからカーライルのルーベンスタインも。当たり前ですけれど、これだけの資金量があれば、世界中が注目しているし、話を持ってくる。

 そして、たとえばジェイミー・ダイモンは、会ってゆっくり話したら、私が留学したのと同じ時期にボストンのタフツ大学にいたんです。タフツ大学とハーバードの分校がフレッチャーですからね、キャンパスとしてはまったく同じところですから、「おいおい、同じ時に同じ場所にいたんだな」と。他にも、海外の知人や友人と、ゆうちょ銀行に入ってから急に縁が深まってきました。

回り道のはずが、ここでいろいろ繋がってきた。

長門:読書家の方はみなさんそうでしょうけれど、僕もこれまでため込んでいた本を何度か処分してまして、去年、ゆうちょ銀行に行く時も「これが最後の仕事になるかな」と思って、気分一新で住まいごと一気に断捨離してしまったんですが、この本は、この文章が載っているだけでも取っておきたくなった。

 一行のために本棚に残す、本とのそういう付き合い方があってもいいように思います。どうしても本棚から外せない、捨てられない本、というのは、その本が自分自身のルーツ、根っこの部分を含んでいるのかもしれませんね。そういう本を時々読み返すのは、意味があることなんじゃないでしょうか。