「盛田さんが僕を睨んだわけ」

創業者世代の方々と仕事をしてきた中で、特に印象的な思い出はありますか。

土井:井深さん、盛田さん、大賀さんと、創業者世代の経営トップ3人に接してきたけど、その後の経営者と違うのは、みんな、きちんと人の話を聞ける人たちだったということかな。それぞれ、話の聞き方には大きな違いがあったけどね。

 盛田さんは意識して人の話を聞くスタイルの「聞き上手」だったな。人の話をできるだけ遮らないように、ということを意識しながら、いつも話をして、情報を引き出していたようだ。

 昔、ソフトバンクの孫(正義、ソフトバンク創業者)さんがビジネスランドという米国のパソコン販売会社を日本で展開しようとした時、盛田さんに会いに来たんだよね。その時にビジネスランドのトップとソフトバンクの孫さん、盛田さん、僕の4人で打ち合わせをしたことがあった。ビジネスランドのトップの話が長かったので僕が遮って話を始めた一幕があったんだ。

 そしたら盛田さんがものすごく怖い顔で僕を睨んだ。その時に気が付いたね。盛田さんは努力して話を聞いていたんだな、って。会議中は何も言わないけど、怖い顔して僕を睨んで、「人の話を遮ってはダメだ」と叱ったんだと思う。

 まだソフトバンクがソフトウエア製品の流通会社だったころだから、1980年代の後半の話だな。ソニーは当時、ワークステーション「NEWS」を開発して販売していたから、ソフトの流通をやっていたソフトバンクとも関係があったんだ。

「盛田さんが倒れた瞬間、隣にいた」

土井:盛田さんとは毎週火曜の朝にテニスをしていた仲だった。だから、盛田さんがテニス中に倒れたときも、僕は一緒だったんだ。その時は突然、盛田さんが「サーブのトスを上げらない」ってぼやき始めて。手からテニスボールが落ちるんだけど、もう自分で拾えない。

 様子がおかしいから「盛田さん、ちょっと休んでください」となった。僕の隣に盛田さんが座っていたんだけれど、どんどん体が傾いてくる。これはおかしい、ということで自宅に送るために、僕が盛田さんの体を支えてクルマまでお連れしたんだ。あの時はまさかそんな大事になるとは思わなったよ。

 盛田さんと毎週火曜にテニスをするようになったのは、火曜の朝に常務会があったから。どうせ朝早く来るから、「常務会の前にテニスやろうぜ」ということになったんだ。その前から盛田さんとはたまにテニスをする仲だったし、仕事での接点もいくつかあったよ。

大賀さんの口癖「Just do it!」

大賀さんも聞き上手だったのでしょうか。

土井:大賀さんは聞き上手というか、また大きくスタイルが違っていて。相談とか、承認をもらおうとお願いに行くと、まず大賀さんは自分の興味あることをしゃべるんだな。自慢話も含めてね。

 全体の時間で言うと、出だしから8割くらいは大賀さんが一方的に話をする。それに耐えて残りの2割の時間を使って説明して、お願いをする感じ(笑)。大賀さんの話を聞けば、ちゃんとこっちの話も聞いてくれる。

 そして説明に納得をして、プロジェクトの推進などでOKを出す際は、「Just do it!」っていうのが大賀さんの口癖だったな。「お前がそう思うんだったら、とにかくやってみろ」ということ。これも「フロー経営」だね。信頼がベースの経営を大賀さんもしていた。

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