合理的経営に走る日本、フロー経営目指す米国

土井:ソニーにしても富士通にしても、日本企業は昔から自然にフローな状態を生み出し、会社経営をしていたってことなんだ。実はそれこそが日本企業の強みだったんだよ。

 それなのに、ある時期から日本人自身がやみくもに舶来の経営手法を信奉して、「日本のやり方は時代遅れで最先端の米国型経営に移行するべきだ」ってなっちゃった。ご存じのようにその後、ソニーも富士通も経営がおかしくなった。

 ソニーショックから約1年後、僕は米国で、創業期のソニーの持つ強みが、今度は米国で注目され始めたという衝撃の事実を知ったんだ。完全にお株を奪われた思いで本当に悲しくなったよね。

 1990年代後半から、ソニーは米国の合理主義経営をありがたく取り入れて、自らの強みである創業期からのフロー経営を徐々に捨てた。そしてソニーの凋落が始まった。

 一方で2004年になると、米国人の学者が米国の経営者やビジネスマン相手に、組織に活力を生むフロー経営のお手本が日本にあったと講演し始めたんだよ。それがまさに、「創業期のソニーだ」と明言したんだ。

 もうね、「こんちくしょう」と叫びたくなったよ。1990年代後半以降、ソニーは何をやっていたんだろうと悔しくてね。

土井レポートに反応した唯一の経営者とは

確かに皮肉な現象ですね。もちろん米国型の合理的経営に学ぶところはあったと思いますが、日本企業として残すべき強みと、変えるべき部分の選択を、1990年代後半以降のソニーは間違えてしまった。

土井:そこから、エンジニア畑一筋だった私も経営をしっかり勉強しようと思って、様々な経営書を読み漁ったんだ。そして、「合理的経営の元祖である米国でも、創業期のソニーをお手本とするフロー経営が注目され始めている。今のソニーの経営を改めるべきだ」というレポートを、チクセントミハイと会ったカンファレンスから帰国した直後に書いて、当時のソニーの副社長以上に送った。

 だけど悲しいことに、経営陣からは全く反応がなかった。まだ出井(伸之、ソニーの会長兼CEOなどを歴任)さんが経営トップで、彼が社長就任以来やってきたことを真正面から否定するレポートだったから仕方なかったかもしれないね。

 ただ実は僕のレポートを読んで電話をくれた人がソニーの社内で一人だけいたんだよ。それが、大賀(典雄、元ソニー社長)さんだった。大賀さんが僕に電話してきて、「あれは素晴らしいレポートだった」と言ってくれた。もう、経営の一線から退いてから長くたっていて相談役という立場にあった。

 けれど振り返ると、その頃から大賀さんと出井さんの戦いが始まったんだと思う。2004年4月頃の話だよ。ソニーショックを経て、出井さんは「クオリア」プロジェクトで巻き返そうとしていたけれど失敗続きだった。

 大賀さんもソニーの先行きに不安を持ち始めていて、出井さんを後継者に選んだことを後悔し始めていたんだ。当時のソニー副社長以上の人で、僕のレポートに反応したのは相談役だった大賀さんだけ、というのは悲しかったよね。もう一人くらい経営陣の中で、僕の主張に共鳴する人が、出てきてほしかったな。