「現場に任せてうまくいったら大変だ」を乗り越える
土井さんが提唱する「フロー経営」は、創業時で会社規模が小さく、社長が社員の顔と名前を把握できるくらいの組織でなければ、実現できないようにも思えます。
土井:フロー経営は、組織の大小は関係ない。社員数が少ない小さな組織の方がやりやすいかもしれないけれど、組織が大きくなってもできるものだ。
ただ、組織が大きくなり社員数が増えるにしたがって、経営トップのマネジメントの手腕や人格が、より問われるようになるから、決して簡単ではないよ。もう管理型になってしまった大企業であれば、時間をかけてマネジメント層の人材を、上から徐々に変えていかなきゃいけない。
井深(大、ソニー創業者)さんなどがやってきた、現場を信頼して任せる経営って、言うは易しだけど、実践するとなると実はとても難しいんだよ。フロー経営は現場に任せる経営。任せるには、自分が先頭に出ず、現場を信用して権限を委ねるということなんだ。
今、「天外塾」という経営塾で経営者を指導しているけれど、ほとんどの経営者は葛藤のエネルギーで経営している。葛藤が強すぎると、自分が先頭に立って戦っていないと精神的に不安定になる。そうすると「自分が主導せずに誰かに任せてしまうと、うまくいかないのではないか」という不安が強くなるんだ。任せてはみたものの、最終的に失敗してしまうと、「自分が責任だけ取らされてはかなわない」という意識だね。
でもね、こういう葛藤のエネルギーで経営している経営者でも、サイコセラピーを進めていくと葛藤が徐々に解消されてくる。すると最初に直面する、「現場に任せてうまくいくのか」と不安の奥底に、今度は「任せてしまって、うまくいったら大変だ」という不安も見えてくるんだ。つまり、「自分が関与していないのにうまくいったら自分の存在価値がなくなる」という不安だよ。
だけど、これらの不安をしっかり直視して乗り越えることができれば、ようやく昔のソニーのようなフロー経営ができるようになる。創業者世代のソニーの経営者、井深さん、盛田(昭夫、ソニー創業者)さん、大賀(典雄、元ソニー社長)さんなどはそれが自然にできていた。
これは、10年以上にわたって僕が多様な経営者を指導してきてようやく分かった真理だよ。
報道を通じて言動を見ている限りでは、今のソニーの経営陣には、そういう人はいないよね。現場に任せるというよりは、「俺が、俺が」という、自分が引っ張ろうという意識が言葉に出ていて、現場に任せる感じではない。だから数値目標や成果主義という管理が必要になる。
もちろん、今のソニーにも優秀な人は多いと思うよ。いい大学を出ているし、社会人になっても上司の理不尽な意見に対して自我を殺して受け入れるとか、そういうサラリーマンとしても優秀な人は多い。だけど、こういう優秀な人ばかりでは、フロー経営には戻れない。
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