「このままクビにしたらマスコミが黙っていない」

それで土井さんはソニーを辞めてしまうわけですか?

土井:おとなしく引き下がるのは癪に障る。だから僕は出井さんに一矢報いたんだ。

 「クビにしたい気持ちは分かるし、ソニーの役員を退くのもやぶさかでない。だけど、僕をこのままクビにしたら、これまでのメール合戦は大勢が見ているし、これが流出したらマスコミは黙ってないよ」とね。

 これは間違いなく「脅迫」に近かったな(笑)。

 出井さんは過去に広報を担当していたことあるし、マスコミ対応もやった経験があるからひるんだよ。そこで出井さんが譲歩してきた。「何かやりたいことはあるのか」とね。

 そこで僕は、「ソニー本体の役員を退いてもいいから新しい研究所を作りたい」という希望をやぶれかぶれで言ったわけ。「AI(人工知能)と脳科学を融合させた研究所を、ソニー本体とは別の会社として作らせろ」という僕の要望は見事に通った(笑)。

 そして新しい研究所ができた。「ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所」と名付け、2004年にソニーの100%子会社として発足。当時としては民間企業で初めてスーパーコンピュータを導入して、脳科学研究なんかを始めたんだよ。せっかく、そんなスパコンを入れるほど最先端の研究を進めたのに、その研究所も2年くらいでなくなってしまった。

「ロボット開発の息の根を止めたのは出井さん」

土井:つまり、こういうことだよ。

 ストリンガー(ハワード・ストリンガー、ソニーの会長兼CEOなど経営トップを歴任)体制時の2006年に、ソニーはロボットの研究開発を最終的にやめたことになっている。だけど実際は、出井さんがQRIOの商品化にストップをかけた時点で、ソニーとして、「ロボットはもうやらない」という意思表示がなされたということだ。

 QRIOを世に出さないと社内決定した2004年時点で、メッセージが出ていたんだ。世界でも最先端を走っていたソニーのAIとロボットの研究開発の息の根を止めたのは、ストリンガーではなく、出井さんだった。「ソニーはロボットから完全撤退する」という意思決定をしていて、その路線を2004年に、もう作っちゃったということだよ。

 そしてソニーは既定路線通り、AIBOやQRIOといったロボット開発をすべてやめたんだ。同時にAIやロボットに詳しいエンジニアも、四散してしまったよ。

 その頃にAIBOの研究開発に従事していたエンジニアは、かなりの人数がソニーをやめてしまった。けれど今でも、米グーグルのロボットプロジェクトに入ったり、日産自動車の自動運転プロジェクトの中心人物になっていたり、ソニー時代の知見を生かして活躍している。

 今、国内外でAIやロボット分野の第一人者となっているエンジニアの多くは、当時のソニーにいたんだよ。