「クヨクヨしないで頑張ろうよ」

実体験に裏付けされた、歯切れがよい大曽根さんの言葉は痛快で、人に元気を与えます。衰退する日本の電機産業や日本の技術者などにメッセージはありますか。

大曽根:メディアは「失われた20年」とか暗いことばかり言うけれど、もっと前向きなことを報道してほしいよ。GDP(国内総生産)で中国に抜かれたのは事実だけれど、世界中にこれだけたくさんの国があるなかで、国としてのGDP規模はまだ3位でしょ。失われた20年だったのに、ついこの間までは米国に次ぐ2位で、まだ世界で3位。それって、すごくないか。

 産業の歴史から何を学び、どうしたら日本勢の強みを伸ばして成長できるか考えるべきだろう。さっき言ったように、化学やメカの分野で、まだ日本は技術を蓄積できていて競争力を持っている。強い産業はきちんと強くなっている。日本全体が変にクヨクヨしないで頑張ろうよ、って言いたいね。

 世界で闘える電機メーカーだってまだまだたくさんあるよ。デジタル家電の部品会社として元気のいい村田製作所や京セラ、TDKは、もともと化学分野の製品も作っていたんだよ。抵抗・コンデンサとかね。だから韓国にも台湾にも中国にも、あんな機能を持つ部品を作れるメーカーが生まれてこないんだ。

 米アップルのiPhoneも、1台につき約35%が日本の部品メーカーの部品を使っていると言われているでしょ。日本製部品の信頼性や品質は化学分野の強さから来ていて、今もとても競争力がある。

 後はメカや機械の世界ね。実装機や生産設備もそう。産業機械からコマツのような建機まで、それらはメカの分野だ。この分野の製品も新興国勢は簡単にはマネできない。デジタル家電は数学ができればなんとか真似できるけれど、機械分野はそうはいかない。

 その、機械とメカの塊が自動車だよ。デジタル家電は軒並み新興国勢にやられちゃったけれど、自動車会社は日本にたくさんあって、一部を除くと、みんな個性を出して成長している。

 だから産業機械や素材、生産設備、医療機器、ロボットなど、そういう分野では、まだ日本勢が伸びるよね。しかも日本にはそういう分野の基礎技術や開発、生産のインフラが整っている。すそ野となる企業も育っている。こういう分野こそ日本企業は強化すべきなんだよ。

「市場が成熟?バカ言っているんじゃないよ」

一般消費者向けの最終製品ではなく、主にBtoB(企業間)や黒子となるような分野で日本のメーカーは生きていくべきなのでしょうか。

大曽根:そんなことはなくて、考え方次第だよ。あらゆる製品で「市場は成熟している」とか、したり顔で語られるけれど、「バカ言っているんじゃないよ」と言いたいね。今の製品なんかちっとも成熟してない。

 最近の製品は処理能力が上がっただけで新しさを感じられない。だから誰も欲しいと思わなくなった。これを成熟市場になったからだと勘違いしているけれど、次から次に進化する未知の世界はあるんだよ。単に新しいコンセプトの創造ができてないだけなんだ。

 消費者が新製品を買うかどうかを決めるのは、機能や能力が既存製品からアップしただけじゃない。だから最初の目標設定能力が大事なんだ。コンセプトと言ってもいい。どういうコンセプトの製品を作ろうという観点が、今の日本企業の最終製品にはなくなってきている。

 結局、処理能力や機能向上ばかりの新製品が増えてしまうのは、1を100にすることが得意な人間が幅をきかせているっていうことなんだろうね。目標設定能力を持った人間がなかなか出てこないのだろうけど、確かにゼロを1にする人はそんなにいないよ。ただ重要なのは、そういうコンセプトを作れる人間を日本で大事にできるかどうかだろう。

 ユニクロにしたって、「衣類」なんていうのはもう太古の昔からあった。だけどそういう製品市場で、全く新しいコンセプトの製品を作ったから急成長した。日本電産もそうだよね。モーターなんていうものは100年前からある。日立製作所の創業者がモーターを作っていたよね。だけどモーターの需要を次々に広げて、今も市場は伸びているでしょう。

 だから、「この世に全くないモノを新しく創ろうなんていうことだけに、捉われなさるな」とも言いたいよ。衣類やモーターみたいに、元々あるものでも新しい発想や組み合わせで革新を生めるんだから。

「まずはやってごらん」と言いたい

大曽根:白物家電の分野もおもしろいよ。最近だって英ダイソンが、羽根のない扇風機を作ったよね。ずっと昔からある扇風機だけど、ああいう革新的な製品が白物家電の分野からはまだ出てくる。洗濯機や電気釜とか、日本勢しか作れないような製品がまだ出てきて、高い値段でも売れている。ここは韓国勢や中国勢と戦っても、安売りしなくて売れるでしょう。

 デジタル製品分野で韓国や中国にやられちゃったことを、マスコミが過度に叩くから、みんなしょぼくれちゃったんだよ。電機だけでなく、いろんな分野で日本人は新しいものを作ってきたんだよ。勝てる領域で新しいことを大胆に発想して、「まずはやってごらんよ」と言いたいね。そういうムードができれば、日本からまた新しいものが次々と生まれるよ。

 いつ成果が出るかとか、結果がどうなるかとか、管理屋的な発想は置いておいて、ね(笑)。まず自由に発想してほしいよね。みんなが何に困っていて、どうやったら便利になるのか、どんな世界になれば楽しくなるか考えていこうよ。

 例えば、今も高速道路は渋滞していて正月や連休は大変になる。自動車のドローンみたいなものが出てきて、ひょいと3メートルくらいの高さまで上がって、すーっと空を飛んで進んで、渋滞が途切れたところまで飛んだら、また道路に降りて走行できるとか。ドローンは垂直に離着陸できるから、この技術をクルマと組み合わせられないのかな、とかさ。

 「バカみたい」とか「そんな無茶な」とか思うかもしれない。だけど、まずは発想を豊かすることが重要なんだよ。そうしないとゼロは1にならない。

 クルマもまだ進化するし、新しい需要を生みだせる。発想次第では、クルマをベースに新しいモノを出せるはずなんだ。衣類やモーター、クルマもそうだけど、まだ需要があって使っているものは、成熟市場になんてならなくて、成長産業になり得る。いらないものだったら、すぐにこの世からなくなっちゃう。必要だから、まだ存在しているんだから。

発想次第で、新しいモノはできる

大曽根:サービスでもいいんだよ。セブンイレブンは和魂洋才で生み出した新しい小売りサービスだよね。元々は米国で生まれたサービスを日本流にして、今の進化したコンビニビジネスができて、本家を追い抜いちゃった。

 こういうので失敗するパターンは、海外で流行っているからと、そのまま日本に持ち込んで、うまくいかないやつね。日本向けの工夫がないからダメなんだ。「無魂洋才」じゃあセブンイレブンにはならない。既存のものにひと工夫がいるよね。

 その点、星野リゾートも面白い。ホテルや旅館業は昔からあるのに、日本的なおもてなしのテーストを取り入れたりして外国人や日本の富裕層に受けている。元々あるサービスに日本ならではの良さや強みを加えても、新しいものができるんだ。

 「発想次第で、新しいモノは必ずできるぜ」という心意気だよ。もっと日本全体で元気出して、自信を持とうよ。

(終)