ソニーの救世主になり得た化学部門

最先端の技術を持ちながら、選択と集中による事業リストラで消えていったのは、「AIBO」のようなAI(人工知能)や、ロボット技術だけではないんですね。

大曽根:今、しきりに思うのは、韓国勢や中国勢が台頭しても、すぐ真似をされない分野は、ソニーグループにちゃんとあったってことなんだ。そういう意味では、ソニーがかつて持っていた化学部門が極めて重要だった。ソニーケミカル(現デクセリアルズ、2012年にソニーが投資ファンドなどに売却した)っていう会社ね。

 例えば半導体や液晶が分かりやすいけれど、物理学を基本にした技術や製品は、装置があれば作れてしまう。技術もノウハウも、今は日本製の製造装置に入っているからね。

 デジタル化の時代になって、韓国勢や中国勢、台湾勢が、その製造装置を買うことができれば、日本企業と同じ品質やスペックの製品が作れるようになってしまった。半導体は物理学の世界で、原理原則をきちんとやると、後は論理的に同じ結果が出る世界なんだ。だから同じ装置を使えば、同じ品質のものが作れる。

 結局、半導体や液晶パネルは、中国勢や韓国勢に急速に追いつかれて、抜かれてしまった。こうなると技術力うんぬんではなく、いかに質の高い設備を大量に買うことができるかという投資余力の有無で勝負がつく。パワーゲームになってしまうんだ。日本勢には分が悪いよね。そういう戦い方に慣れてないから。

 ソニーがトランジスタラジオで一世を風靡したのは、世界のどこを探してもトランジスタの製造装置なんてなかった時代だからだよ。ソニーは自分で独自の製造装置を作って、トランジスタラジオを作った。だから競争力のある製品だったんだ。

 その製造装置は外販していなかったから、ソニーのトランジスタラジオは差別化できた。今のデジタル家電やデジタル部品は、生産設備メーカーが、完成品メーカーとは別になっていて、同じ生産設備を入れれば同じ品質の製品を作れてしまう。これが物理を基礎にした分野ね。

「ストリンガー時代の経営陣はあまりに技術音痴だった」

大曽根:だけど、物理の世界と違って、化学の分野は全く異なる勝負ができるんだ。化学分野では、触媒を一つ変えるだけで、従来と大きく異なる素材や製品ができるからさ。欧米企業は家電や半導体などのコモディティー分野でモノ作りが空洞化しても、独BASFや米3M、米デュポンといった化学分野の企業は、今もちゃんと生き残っているでしょ。東レとか、日本勢も化学分野は元気だよね。あれは化学分野が、簡単に新興企業に真似されにくいことの証左だよ。

 だから、ソニーケミカルが手掛けていた、電機製品を作るための接着剤や粘着テープといった部材は、新興国勢がキャッチアップできない化学分野の事業として重要だったんだ。今もソニーケミカルが作っていた部材の世界シェアはものすごく高いよ。

 それなのに、足元の経営が厳しいからと、短期的な視野しか持たないストリンガー(ハワード・ストリンガー、ソニー会長兼CEOなど経営トップを歴任)体制時代に、経営陣が「高く売れるうちに売っちゃえ」と売却しちゃった。これは当時のソニー経営陣が、あまりに技術音痴で、先を読めなさ過ぎることを証明していると思うね。こんな大事な技術を持つ会社を、「ノンコア事業」と判断して、手放しちゃったんだから。

化学、メカ…優位な技術を捨てる経営陣

だからこそ、ソニーのバッテリー事業は重要だと主張しているんですね。

大曽根:まだソニーに残っているバッテリー事業も化学分野だからね。差別化しやすい事業なんだから、その重要性にちゃんと気が付いて大事に育ててほしい。

 平井(一夫、現ソニー社長兼CEO)さんが経営トップになった当初は、ソニーの宝のような事業であるバッテリー部門を売却する方針を出してたのを覚えているかな。結局、1年くらいしたら売却する方針を撤回したんだけど今度は、「バッテリーは中核事業だ」とか言い始めて、方針が二転三転している。

 この話を聞いて、「なんで、バッテリー事業の重要性が分からないのか」と残念に思ったよ。売却する方針が一度でも出たら、この分野で優秀な人材はすぐに会社を辞めて次に行くからね。

 「売却する」と経営陣が言った時点で、キーパーソンの技術者がいなくなったはずだよ。その後で方針転換をして、「やっぱり重要な事業です」とか言い出してももう遅い。それをこの数年でやっちゃったんだ。

 かつてソニーには化学分野のソニーケミカルがあり、メカの分野であるロボット事業もあった。それなのに自分で優位な状況を捨てちゃった。日本のお家芸を生かして伸ばせる化学とメカの事業があったのに、売却したり、撤退したりでね。