出井時代の「EVA」の功罪

かつてのソニーも、社内で数値管理の目標を導入しましたよね。

伊庭:振り返れば、出井(伸之、ソニー社長や会長兼CEOなど経営トップを歴任)さんの時代に、「EVA(経済的付加価値)」と呼ばれる指標を導入して、資本効率の管理を厳しくした。ROEやROICの数値目標も、同じような悪影響を及ぼさないといいが、心配だよ。

 EVAは、資本コストを意識させる指標だけれど、現場で使いやすいよう制度設計がないまま導入したのが混乱の原因となってしまった。結果として、当初の狙い通りに機能せず、短期志向の管理が目立つようになった。技術者や事業部のスタッフが委縮して、ソニーの良さである自由闊達な開発環境を阻害する要因にもなったな。

 単純な話だよ。だって、投資を抑えて分母を小さくすれば、その数字はよく見えるようになる。それで評価されるわけでしょ。そうなったら投資リスクなんて取らないほうが評価を下げられる危険性も減って、安易な方針に流れてしまう。そして挑戦しない人が増え、会社全体がおかしくなってしまった。

 世界的なスマホの成長頭打ちやiPhoneの減産などで先行きが不透明だとはいえ、エレキ分野の業績の柱に育ったイメージセンサーの歴史を振り返ってみてもらいたい。

 イメージセンサーでソニーが競争力を持つようになったのは、かつて誰も実用化できると考えなかったことに、ソニーだけが挑戦し続けたからだよ。短期的な成果が出なくても、「中長期的に必要な主要デバイスになるから、腰を据えて開発しよう」と、技術の先読みができる経営陣が確信して先見性を持って、成功するまで待ち続ける忍耐力があった。

 イメージセンサーは、技術系社長だった岩間さんが開発を指示してから、実際に利益が出るようになるまで長い時間がかかっているからね。「利益が出るのは自分がいなくなってから」と岩間さんが言っていたほどカネと時間を費やした開発だったんだ。

意味不明なスローガンばかり出てきた出井時代

伊庭:出井さんが経営トップだった時代のマネジメント体制の実態を振り返ってみると、ソニーの「第二の創業にしたい」という意気込みは分からないでもなかったけれど、盛田さんなどの創業者世代と違って、言葉だけで実態が伴わなかった。

 「リ・ジェネレーション」とか、意味不明なスローガンを打ち出して、出井さんは過去から決別し、あの有名なソニーの「設立趣意書」を作り直そうと試みたようだった。それは本当に、理解しがたい行為だったな。

 盛田さんが1976年にソニーのCEOに就任した時、衆知を集めて意思決定するという目的で、執行の最高意思決定機関である合議制の経営会議が設立された。出井体制の当初でも、この会議体は機能していたけれど、次第に合議制の良い部分が生かされなくなってしまった。

 そして出井体制の最中に、法律上の委員会設置会社に移行したうえで、盛田さんが導入した合議制が廃止されていった。そして、CEO単独で経営の意思決定ができるよう経営トップの権限が拡張されたんだよ。

 これは大きな問題がある決定だったと思う。技術者を経営の中枢に近づけようとしなかったばかりか、自分(出井さんのこと)と異なる意見の技術者や部下を、極力排除したいがための決断だったと考えてもいいだろう。

 もっとも、出井さんがCEOに就任した当時、技術だけでなく経営やビジネスも理解する技術者が育ってなかったという事情もあるのだけれど…。

「OBが現役の経営方針や体制についてとやかく言うべきでない」という意見もあります。現経営陣も煩わしいと感じているのではないですか。

伊庭:一般的にはそうかもしれない。ただ、強弁かもしれないけれど、私の提言は主に、取締役会の構成について言及している。ソニーを愛するOBの一人ではあるけれど、ソニーの株主としての提言でもあるわけだ。経営者に対してだけでなく、社外取締役に提言を聞いてもらいたいという気持ちも強いんだ。

(下に続く)