盛田さんは「ソフト屋」だった
斬新なソニー論ですね。しかし、ソニーがなぜ何のシナジーもなさそうな事業ポートフォリオを持つコングロマリットになったのかという疑問に対する一つの解でもある。「一体、今のソニーは何の会社なのか」を明快に説明できる人は、社外はもちろん、ソニーの社内にもいません。
丸山:盛田さんのやってきたことを冷静に見れば、あの人はソニーをエレキの会社だとは思ってなかった節がある。だって、エレキのハード屋の会社だというなら、なんで冷蔵庫や洗濯機など白物家電を作らないのと思うよね。
技術の会社なら、重電みたいな社会インフラまで突き詰めてもいいと思うけれど、そうはならなかった。創業時は電気座布団や炊飯器といった白物家電を作ってしのいでいたのに、会社に余裕が出てくるとそこには戻らなかった。
一方で米国の映画会社や音楽会社を買い始めるわけでしょ。こんな発想はソフト分野に近い人じゃないと出てこない。ソニー創業者の井深さんがハード屋だったことは間違いない。けれど盛田さんはソフト屋だったんじゃないかと思うよね。
エレキ事業のハード屋は、工場で1円、1銭単位のコスト削減を地道にやるじゃない。ソフト屋にそんな意識はない。実際、盛田さんは買収した米国の映画会社で、放漫経営を続けていた米国人経営者たちに、自由にカネを使わせていたからね。地道にコスト削減に励む普通のハード屋から見れば、全く理解できないことやっていたわけ。
で、コンテンツにとどまらず、金融分野にまで出ていっちゃった。保険や銀行などの金融事業をやりたがったのは盛田さんだよ。盛田さんの願望を身近で聞いて、それを具体化したのが伊庭さんなんだ。
こうして見ると、ソニーのエレキ事業の利益を使って、田舎のハイカラなボンボンが、子供の頃に好きだった映画や音楽の会社を次から次へと手に入れたというのが、これまでのソニーの歴史ってことなんじゃないか。盛田さんやその親族も含めて誰もそんな説明をしたことないけどさ。
実際、今のソニーグループの事業ポートフォリオの一貫性がどこにあるのか、誰も全く理解できないから、多分そういうことなんだと思う。確固とした戦略があったり、一貫性があったりしたわけじゃなくて、単にソニー創業者の盛田さんがやりたいようにやっていただけなんだよ。だから今のソニーは何の会社か分からなくなっている。
複雑怪奇な事業ポートフォリオ、経営は誰だって難しい
創業者世代が去り、サラリーマン社長が今のような複雑な事業ポートフォリオのグループを束ねるのは大変だと思います。とても一人ではエンタメからエレキまで、理解できないはずです。
丸山:それだけ、創業者の力や思いは絶大なんだよ。意思決定のスピードも速い。創業者が死んで、社長の世代が変わってくると、創業者が元々何を考えて今のような事業ポートフォリオを作ったのかなんて分からなくなるわけだから。
時代が変わり、外部からは「ガバナンスの徹底」とか、政府からは「取締役会に社外取締役を増やせ」とか言われたりして、「株主を意識した経営」とか面倒なこともやらされる。そりゃあ社長になる準備もしてない状況で「社長やって」と言われた人が、こんな状態のソニーのトップに就いたら、いろいろ迷うよね。
ライフサイクルや特徴の違う事業ばかりで複雑怪奇、ほぼシナジーがない事業ポートフォリオのソニーグループを、足元でどう経営して、将来はどんな企業体を目指すのかなんて、誰も想像もできないよ。答えは盛田さんしか知らないんだから。
ソニーは中長期的な種まきをしてこなかった
今後のソニーグループはどういう企業体になるべきだと思いますか。
丸山:俺はもう、ソニーグループが今後、どうなっていくかなんて知ったこっちゃねえよ。こういうことを言うとハレーションが起こるだろうけれど。あえて乱暴に言うとだな、ソニーはもう「ハードの会社で、技術の会社」と言える時代は終わったんだ。
今のソニーはイメージセンサーなどが好調で、業績的には回復してきたけれど、イメージセンサーの根本は30年くらい前に岩間(和夫、元ソニー社長)さんが種まきをやってきたのが、ようやく実を結んでいるわけでしょ。そういう長期的な観点に基づいた種まきをしばらくしてこなかったし、今もやっていない。次の種を仕込んでないんだから、一時的に業績は回復するかもしれないけれど、その後、中長期でどうなるかは明白だよ。
ソニー本体の中にも、日本人にも、ソニーがまだ昔と同じという幻想を抱いている人は多い。だけど、ソニーが技術の会社だというのは絶対に違う。この先、ソニーが新しい成長フェーズに入るには、まずこの現実を、ソニー自らが自覚して、呪縛から逃れることだな。そうしたら自由な発想ができるようになって、次の展開が見えると思うよ。
ソニーは、今はもうエンタメ系の事業でユーザーを喜ばせるソフトや道具を作る会社なんだよ。昔からずっとハードを作っていたからって、今も同じだと勘違いするのは、もうやめたほうがいい。
「ソニーの製品って格好いい」と思われていた会社だったけれど、実は凄い軍事技術を持っているわけでもなく、大半はエンタメ向けの技術ばかり。だから今後はエレキではなく、エンタメ路線が中心になるのは間違いないよ。
大事なことだから最後にもう1回言うよ。ソニーの本質は高級なおもちゃ会社なんだよ。(終)

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