伊庭さんは2014年11月から複数回、ソニーの経営改革の提言書などを作り、現経営陣に送っています。伊庭さんから丸山さんに、こうした活動で協力要請はないのでしょうか。

丸山:俺はソニー本体ではなく子会社にいたから、本体からは離れていた。だから昔から、ソニー本体のおかしなところはよく見えていたの。そういう立ち位置だから、伊庭さんと俺は意見が異なるんだろうね。

 そこはどう言うかがものすごく難しくって。伊庭さんは、「ソニーは元々、エレキの会社としてスタートしたのに、最近のソニーはエレキらしさが消えてきている」と懸念されている。盛田正明(盛田昭夫氏の実弟で、ソニー副社長などを歴任)さんと一緒の意見でしょ。

 創業時のようなソニーでなくなってきているのはなぜなのかというと、「ストリンガーや平井さんといった、エレキ軽視の経営トップが続いたからだ」というのが伊庭さんを始めとする多くのソニーOBの意見。創業時のような勢いがなくなり、いつまでも復活できない原因は、「経営トップにエレキ出身じゃない平井さんがい続けているから」っていうことになるわけ。

 それが一般的に見て正しいか否かは別にして、伊庭さんたちから見れば、平井さんはソニーのトップとして「ふさわしくない」わけだ。「ソニーはエレキからスタートした会社なんだから、エレキの匂いが消えるのは許しがたい」と主張している。

 でもね、俺から言わせると、それはどうかなと思うわけ。「ソニーは本当にエレキの会社としてこの先、見込みがあるんですか」って、伊庭さんの弟子としてあえて厳しいことを言ってるんだよ。

 今の平井さんがどこまで深く考えてソニーの経営をしているのか、俺は知らない。けれど今のソニーの、エンタメやソフト分野へ注力する路線は、必ずしも間違っていないんだよね。

ソニーOBが盛り上がる久夛良木待望論

伊庭さんも明言はしていませんが、久夛良木さんのことを評価していて、ソニー経営トップへの“久夛良木待望論”を支持しているように思えます。伊庭さん以外のソニーOBに聞いても久夛良木さん待望論は多い。こうした声をどのように見ていますか。

丸山:もう久夛良木本人はソニー社長をやろうなんて思ってないんじゃないかな。あいつは賢いから、ネット全盛のこの時代では、いくらスーパー技術者だった久夛良木でも、「俺の知見はもう古い」と悟っているはずだよ。

 エレキ出身のソニーOBたちは、とにかく今の経営トップから平井さんを降ろしたくて仕方ない。けれど、ほかに任せられる選択肢が思い浮かばないから、「じゃあ久夛良木だ」って言っているだけでしょ。

 今のソニーの経営陣に文句を言ってるソニーOBたちの最大の問題点は、「じゃあ平井さんの次の社長は、誰にしたらいいと思ってるの?」っていう俺の質問に、誰も的確に答えてくれないことなんだ。

 名だたるソニーOBの皆さんが言うのは、「平井さんはダメだ」ってことだけ。そう主張するOBでも「今、執行役のこの人が次期社長になるべきだ」といった具体的な候補者の名前は出てこない。全盛期を知るOBたちが評価できるような、次のソニーのトップになれる人材は、今のソニーにはいないということなんだよ。それなのに平井さんに反対するOBたちも無責任だと思うよ。

「裕福な地方のボンボン」=ソニー

振り返ると、盛田さんはエレキだけでなく、音楽や映画、金融といった事業ポートフォリオを拡大していきました。この手腕をどのように評価していますか。

丸山:パナソニックを創った松下幸之助さんと、盛田さんを比べると分かりやすいけど、盛田さんの生い立ちがソニーの多角化の背景にあると思うよ。

 パナソニック創業者の松下さんは、一般的に言われているのは、裕福な家に育ったわけではなくて、電球のソケットを作って立身出世していくわけでしょ。だから今のパナソニックは電球を作っているし、生活必需品の白物家電や住宅とか、社会インフラに近い事業もやっているんだと思う。

 だけどソニーは同じ電機業界の会社でありながら、テレビやオーディオみたいなデジタル家電はやっているけど、白物家電はやらない。この違いは、松下さんと盛田さんの生い立ちの違いだよ。だからパナソニックは生活に必要不可欠な必需品を作るし、ソニーは生活必需品ではなくて娯楽に近い電機製品だけを作っている。

 なんでソニーがそうなったかというと、盛田さんが名古屋の田舎の酒蔵のボンボンで、派手な生活が好きだったからだろうね。オーディオが好き、カメラも好き、音楽や映画も大好きだった。

 そんなハイカラな生活が好きな地方の酒蔵のボンボンが盛田さん。当時はみんな貧しかった日本で、裕福な家に生まれた人が創業者の一人だったというのがソニーなんだよ。だから盛田さんはソニーで、自分がやりたい事業を好きなようにやってきた。