「ソフト分野を理解していたのは大賀さんと盛田さんだけ」

大賀さんは常々、「ソフトとハードは交わってはダメ」と考えていたと、あるソニーOBから聞きました。

丸山:笑っちゃうのは、(米映画会社を買収したけれど、その後手放した)パナソニックと比べて、「ソニーはずっと映画や音楽の会社を持ち続けていて、ソフト分野のことがよく分かっている」なんて世間で言われていることだよ。そんなことなくて、ソニーも分かっていない人がほとんど。ソフト分野の事業が何たるかを理解していた経営陣は、盛田さんと大賀さんの2人だけだよ。

 ソニーがパナソニックと違ったのは、同じように米国の映画会社を買収したけれど、資本を入れていただけで、経営は基本的に現地に任せていたことだろうね。レコード会社を買っても同じやり方だった。日本法人だけは大賀さんが立ち上げたけれど、海外のレコード会社に資本を入れても、基本的には経営は任せていたんだよ。あれだけ大金をつぎ込んで買収したのに任せちゃうなんていう度胸があるのが、盛田さんや大賀さんの凄いところだよな。

 同じ意味でいうとCBS・ソニーや、社名を変えたあとのSMEは、もの凄く幸せな状況にあったわけだ。ソニー本体でCBS・ソニーに関わった偉い人は大賀さんだけ。結局、CBS・ソニーの日本法人創業時に採用してくれた俺たちをとても大事にして、意見も尊重してくれた。「お前らが自由にやれ」って言ってくれたから、俺たちは気分よく仕事ができた。

 だからCBS・ソニーは、SMEに社名変更した後もずっと、ハード屋が牛耳っていたソニー本社から何を言われようとも、関係なく自由にやれたの。当然、SMEの社員は「大賀大明神」って、大賀さんのことを崇めちゃうよね。ハード屋の方針なんて気にせず、SMEに社長として来た大賀さんが、全部方向性を決めて、それを俺たちが実行していたわけ。

 経営トップが誰になってから、とは言わないけど、ソニーは「ハードとエンタメの融合」とか「ハードとソフトの融合」みたいなことを打ち出し始めた。けれどエンタメに強い大賀さんが言っていたのは逆。「ハードとエンタメは違う」ということ。だから大賀さんはあえて、ハードとソフトの事業は、距離を置くようにさせていたんだ。

SCE副社長や会長、SME社長などを務めた丸山茂雄氏

「ハードとソフトは絶対に融合しない」

丸山:大賀さんは二枚舌を使う名人だったんだ。本質を理解していたから、「ハードとエンタメの両方が大事」と言いつつ、「融合」とは言わないし、決して2つの事業を交わらせようとはしなかった。だから、エンタメ分野の一つである音楽事業は、ハード分野の人たちのことを気にせず勝手にやってていいよ、と徹底していたんだ。

 「ハードとソフトは絶対に融合できないんだから一切触らせない」っていうのが大賀さんの方針だったけれど、時代が変わって、いつの間にか「ハードとソフトの融合」みたいな、ちゃんちゃらおかしいこと言う人間がソニー本体から出始めた。

 大賀さんみたいに、「現場が分からないから任せてしまう」という一番大事なことを、分かっていないんだ。それを理解できないとソフト事業は成功しないよ。

丸山さんは、大賀さんに加えて、伊庭(保、ソニーの初代CFOなどを歴任)さんのことも尊敬していると言っていました。伊庭さんとはどのような関係なのでしょうか。

丸山:さっき少し話したけど、優等生ばかりのソニー本体にいながら、乱暴なことを言う俺を許容していた珍しい人物が伊庭さんだった。俺が、伊庭さんと違う意見を乱暴に言っても、にやにや笑って見てくれる。そういう人物は、ソニー本体の中ではあの人しかいなかった。

 だから俺は伊庭さんが好きだし、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブマネジメント)を立ち上げる時には、別にやりたくなかったけれど、大賀さんに加え、伊庭さんの言うことも聞いたんだ。

 俺は、盛田さんと直接、何かやり取りがあったわけじゃない。だから盛田さんの弟子ではない。けれど盛田さんの弟子だった大賀さんや伊庭さんの弟子が俺だから。そう考えると、俺は盛田さんの孫弟子みたいな位置づけかな。

 そういう関係だから、ソニー創業者とはいえ、盛田さんに対する強い愛情は俺にはないわけで、冷静に見たり分析できたりするんだよね。あの輝いていたソニーとはいえ、時代が変われば凋落していくのは仕方ないじゃない、という気持ちが強くてさ。

 「盛田さんがソニーでやりたかったことは、本当はこうなんじゃないですか」とか、「ソニーグループが目指すべきなのは、こっちの方向ではないですか」とか、割とあけすけに伊庭さんに意見を言っていたんだよ。

 伊庭さんの意見は、俺と違うのは分かっているけど、俺は彼と異なる意見をズバリと言ってしまう。そういう俺の乱暴な意見を、本音はどう思ってるか分からないけれど、ちゃんと聞いてくれた。だから今でも伊庭さんとは仲が良好なんだよ。意見の相違はあっても、そういう付き合いをしてくれるからあの人は大物だと思う。

 初めて伊庭さんにお会いしたのは、プレステを立ち上げる時だよ。「何と優秀で、さすがソニー本体の人だな」っていう感想を俺が持ったくらいだから、かなりすごい人なんだよ。今もたまに、伊庭さんのところには勝手に押しかけて話をしている。