ソニーとバンダイが合併したら、もっと面白いことができる

出井さんが経営トップだった時代に掲げていた「デジタル・ドリーム・キッズ」というキャッチフレーズは、高級なおもちゃを作るというソニーの使命を継承していたようにも見えます。それが、ソニーの長期低迷に入る転換点になっていたのだとしたら歴史の皮肉ですね。

丸山:高級なおもちゃと言えば、ソニーグループを俺が離れた時期に、よくメディアの取材を受けたんだよ。するとほぼ必ず、俺は逆に記者さんに質問をしていたの。「ソニーの競合はどこだと思いますか」ってね。

 そうするとみんな、パナソニックとかサムスンとか、国内外の電機大手の社名を挙げる。だから俺が言ってあげるの。「いやいや、ソニーの競合はバンダイ(現バンダイナムコホールティングス)だろ」って。

 AIBOもそうだけれど、ソニーは大人が使う、高級なおもちゃを作っていたから、本質的にはバンダイと一緒なんだと俺は思っていたわけ。大人が使うか子供が使うかの違いがあるだけ、ということでね。

 AIBOを売っていた時期に、バンダイも似たようなロボットのおもちゃを売っていたんだよね。ソニーのAIBOが30万円くらいだとしたら、バンダイのロボットは3万円くらいだったかな。価格は10倍も違う。見た目は同じようなロボットなのに、ブランド力やら何やらで、そんなに価格差が付いていた。それでも両社は、どちらもおもちゃを作っていて、やってることは同じだから、ソニーとバンダイは競合だと俺は個人的に思っていたの。

 よく考えてみてよ。ソニーが作るものって、ほかの電機大手と違って白物家電はないし、社会インフラを担うようなものでもないし、軍事関連製品でもないよね。全て生活必需品ではなくて、やっぱりおもちゃなんだよ。それなのに、自分たちは「日本のエレクトロニクスの雄だ」と勝手に思いこんでいた。だから「京都の花札屋に負けたら格好悪いからゲーム機なんてやらない方がいい」なんていう上から目線の意見を、ソニー本体では平気で言えたわけだ。

 繰り返すけれど、ソニーもおもちゃ屋なんだよ。任天堂やバンダイと同じ。だから、もしバンダイとソニーが合併したら、もっとおもしろいことができるって思っていたよ。ソニーが輝いていた時代を知っているのは今や、40代以上の人たちだけでしょ。みんな勘違いしていると思うけれど、ソニーは技術の会社じゃない。それなのに、技術の会社だと依然として思い続けているんだよね。社内の人も、社外の人も。

 ソニー幹部もみんな勘違いをしていて、自分たちで「ソニーはこうあるべき」と、ずっと考えていたんだろね。だから最後は米アップルに負けたんじゃないか。

ソニーがiPhoneを作れなかったワケ

丸山:アップルのジョブズ(スティーブ・ジョブズ、アップル創業者)はソニーを尊敬して、よく研究していたから。ジョブズはソニーの本質を理解していたんだと思うよ。だってソニーはアップルに技術で負けたわけではないから。

 アイデアやデザイン、ビジネスモデルで負けたわけでしょ。そういう意味では、ソニーは自分たちが何の会社なのか理解する力や、それを突き詰める力が足りなくて、元々持っていたいい部分を伸ばせなくなった。

 まあ「iPhone」という凄い製品が出てくるとは、俺も全く想像もしていなかったけどさ。2001年か2002年くらいだったかな、ジョブズが日本にやってきたんだよ。俺は知り合いに頼んで、東京国際フォーラムで行われた彼のプレゼンテーションを見に行けることになった。プレゼンがうまいのなんのって。で、その時に紹介されたのが「iPod」だったかな。

 ソニーも当時は、まだ似たようなことやっていたから、そこまではキャッチアップできていたんだよな。その後に引き離されちゃったな。あのiPodが携帯電話やパソコン、カメラとか、いろんな機能を統合したiPhoneになっちゃうとは思わなかったよ。

 iPhoneを先に作れなくて、音楽などのコンテンツ配信のビジネスモデルも見通せなかったのだから、やっぱりソニーの完敗だった。「同じものを作れる技術は全てソニーグループの中にあった」と負け惜しみみたいなことを言ってる人がいたけど、もう遅いよな。

大賀さんは伝票を1枚ずつチェックしていた

丸山さんは、創業者世代の中では大賀さんとの接点が一番多いようです。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の前身である、CBS・ソニーで初めて大賀さんと出会った時の印象は。

丸山:俺がCBS・ソニーに入社して驚いたのは、大賀さんは社長なのに、経費の伝票まで見ていたことだよ。営業日報なんか信用してなくて。「伝票を見ていれば、どこからどこにタクシーで移動しているとか、電車を使っているとか、交際費はどうなっているかとか、社員の仕事が見えてくる」って言ってた。

 まあ当時は100人くらいの会社だったから、そういうこともできたんだろうけど。「おかしなことをするなよ」と、大賀さんがガバナンスを効かせていたんだな。CBS・ソニーが発足して2~3年くらいの時のことで、ソニーという大会社にいたのに、CBS・ソニーに来たら中小企業のおやじのような経営をちゃんとやっていたんだ。

 小さな組織の頃から、わずかな不正も許さないという風土を作った。SMEが今みたいに大きくなってもこの精神がずっと受け継がれているんだから、やはり大賀さんはすごい人なんじゃないかな。管理は厳しかったけれど、それは不正に関してだけ。伝票を見ておかしなことがなければ仕事は現場に任せていた。そのメリハリは見事だったよ。

 大賀さんは音楽のことは詳しいけれど、レコード会社の現場の仕事までは知らない。盛田さんに「お前がやれ」と言われて、レコード会社のCBS・ソニーの経営を任されただけだから。それをわきまえていたことが、もう一つ、大賀さんの立派なところだろうな。カネのマネジメントはしっかりやったけれど、仕事全般については現場に任せる、と。