「もう、ソニーを楽にさせてあげて」

結局、ソニーは生まれ変わるタイミングを逃して、長い低迷が続いた、と。

丸山:元ソニーの辻野(晃一郎、ソニーでVAIOやデジタルテレビ、ホームビデオなどのカンパニープレジデントを歴任。ソニー退社後は、グーグル日本法人の社長を務めた)さんが、すごくきつい言い方していたの。「もう、ソニーという会社は投資回収が終わって、会社の歴史も高齢化している。この辺でソニーという会社の使命が終わったと日本人も理解して、ソニーを楽にさせてあげてもいいんじゃないか」っていう趣旨のエッセイを書いていたんだよね。

 俺はね、それは正しい分析だと思ったの。俺も似たようなことをずっと思っていたから。「高級なおもちゃを作るという創業時からのソニーの使命は、大賀さんの時代で終わっていたんだな」って。それでよかったんじゃないかな。

 ある程度歳をとった日本人が知っている輝かしいソニーも、大賀さんの時代で終わっていた。正確に言うと、会社はあるけど、中身の事業は終わっている。そんな会社は、創業時の使命もとっくに終わっているわな。

 「大人が手にとってわくわくするようなものを作る」ことがソニーに一番期待されてた。そういうソニーの商品って、やはりプレステが最後だよね。ここから先、プレステみたいな凄いものは、ソニーからは出てこないと思う。だってプレステが誕生したのは、もう20年以上も前だぜ。それ以降、何も新しいものがない。新しいものやブランドを生み出せない一方で、VAIOを売っちゃって、世に知らしめたブランドという資産を切り離していけば、後はじり貧だよね。

AIBOの販売、開発をやめるソニーに俺は切れた

今、ブームになっているロボットやAIも、かつてはソニーが先駆けて開発し、市場に投入してきました。

丸山:これだけテレビやスマホなどのデジタル家電がコモディティー化する中で、ソニーが高級おもちゃ作りに活路を見いだすなら、やはりAIBOの路線だったと思うよ。ソニーがAIBOの販売も開発もやめると決めた時、俺は本当にブチっとソニー経営陣に対して切れたよ。AIBOの開発をやめてしまったのは本当にもったいなかったな。

 エンタメ路線で生まれ変われるという希望がある中で、AIBOはエンタメとのシナジーが大きい製品だった。デジタル家電で中国や韓国勢が台頭しても、エレキ分野でソニーの競争力を維持できる分野はロボットだと、俺は確信していたんだよ。それをやめちゃうって、相当センスのない決断だよな。ハワードや中鉢(良治、元ソニー社長)さんは、トレンドが全く理解できていなかったってことだな。鼻が効かなかったってことだ。

 AIBOの本質はAI(人工知能)と、それを駆動するためのメカトロニクス(メカトロ)にある。当時はまだAIなんて言葉は普通に使われていなかったけれど、AIは、つまるところソフトであり、今後のハードウエア製品の頭脳となるものだから、ここは強化すべきだった。

 ロボットを駆動させるメカトロの技術も、デジタル家電みたいにすぐマネされるようなものではなく、すり合わせが必要だから。日本の電機産業は、この2つが重要だと気付いておくべきだったよね。同じことを今、グーグルなどの米国企業がやっちゃっているんだから。

 いち早く、ソフトであるAIと、メカが連動するロボットに競争の軸を移しておけば優位に戦えたのに、コスト競争力で有利な中国と韓国が強い土俵を選んで戦っちゃった。ソニーがAIBOをやめるって発表したとき、「ああ、ソニーは本当に終わった」と心の底から思った。

 だから俺は、何の未練もなくソニーグループを辞められた。で、持っていたソニーの株もその頃に全部売っちゃった。

 一発逆転が可能なデジタル家電の世界って怖いんだよ。だからそこで戦い続けるなら相当な覚悟が必要なんだよ。これは、プレステが売れて「ソニーが任天堂に勝った」と騒がれた時期にも感じていたよ。

 SCEとプレステの躍進について、当時は何度もインタビューされたけど、とても勝ち誇った気分で取材に応じられなかった。マスコミからは強気なコメントを求められていたんだけどさ。それまで長らくゲーム業界を席巻していた任天堂を、SCEのプレステがわずか1年くらいでひっくり返した。どう考えてもうまく行き過ぎなわけ。

 冷静に考えれば、当時のSCEみたいな斬新な勢力が新しく現れたら、今度はSCEが任天堂みたいに攻められて、立場を逆転されることも起こり得る。「謙虚に次の手を打っていきます」と当時のインタビューでは繰り返し言っていたね。1996年か1997年頃のことだと記憶しているけど。

(下に続く)