「出井さんはGEから本質を学ばなかった」

確かに人間にも企業にも寿命はあるのかもしれません。けれど、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や日立製作所など、100年以上の社歴を持つ企業で、一度は「寿命」に直面したけれど、蘇り、業績を回復させている企業もあります。

丸山:昔のGEと今のGEでは中身は別物でしょ。一時は金融まで手を広げたけれど、また製造業に戻っている。GEの歴史には、家電会社として発足したGEがあり、その後に金融に注力しすぎてやけどをしたダメなGEがあり、家電を売っちゃって社会インフラに注力して製造業とITを融合させようとしている今のGEがいる。

 社名はGEのままだけど事業は入れ替わっている。つまり時代ごとにGEは別モノなんだよ。そういえば出井さんがベンチマークしてたのはGEだったけれど、そういう本質的な部分は学ばなかったんじゃないかな。

 創業者世代の事業がピークをむかえた大賀さんの社長時代が終わったあと、それまでのソニーをぶっ壊してでも新しいソニーを生み出そうとする人は誰もいなかったな。強引な久夛良木でさえそこまでできなかった。

 過去のソニーを壊すような大胆で大きなビジョンを掲げる人材が、トップに選ばれる会社ではなくなった、ということもある。大賀さんが社長を辞めた頃、ソニーは既に5兆円くらいの売上高になって、守るべきものがたくさんあった。

 既にあるものを守りながら新しいことに挑戦しなくちゃいけないのだろうけれど、どうしても企業は保守的になるよ。新しいビジョン持つ人なら、そんな窮屈な大企業病の会社から飛び出して、別の会社を作って自分でやるだろうし。大企業を変えるのは時間もかかる。すると残った人たちは保守的な官僚ばかりになるから、ますます変化はできなくなる。

SCE副社長や会長、SME社長などを務めた丸山茂雄氏

「大賀さんが生きていたらエレキからエンタメに舵を切った」

丸山:企業の歴史が長くなって第何代と社長が続くと、自ずと社長のスケールは代々、小さくなっていく。先代社長が後継者にそういう人を選ぶから。そうならずに、既存の会社をぶっ壊すくらいの改革をしようとするビジョンをひっさげて社長に就任するのは、「どん底になって、もう失うものがないからどうにかしないと潰れる」という、どうにもならない時くらいだよ。

 そういう時に颯爽と登場して改革ができた経営者は、「中興の祖」と呼ばれることになる。でも、普通の日本企業だったら、会社が順調なのに大胆な改革に乗りだせば反発を受けるよね。「うまくいっているのになぜ規定路線を壊すんだ」って抵抗勢力が勢いづく。とても自分のビジョン通りの改革なんてできないよ。結局、「前の社長の路線を引き継ぎます」みたいな、あほらしい社長就任会見のスピーチが出てくるわけだ。

 大賀さんが長生きしていたら、「エレキのソニー」の寿命を感じて、エンタメ路線をむしろ強化したかも、な。既存の路線でソニーのピークが過ぎつつあることは分かっていたはずだから。

 デザインにこだわりがあって、エレキ事業でも大賀さんの鼻は効いたけど、声楽家でもあった大賀さんの真骨頂はエンタテインメントとソフトの分野だよ。エレキ事業でCDを作ったとはいえ、それは音楽コンテンツと一体の話。コロンビア映画の買収や音楽会社の買収、ゲーム事業のプレステ立ち上げも、大賀さんが大きく関わって功績を遺した事業はエンタテインメントに関連するものが多い。

「“ソニーご本社さま”を吸収しちゃおうぜ」

ハードを熟知する久夛良木さんと、ソフトに強い丸山さんのコンビなら、ソニーグループの事業ポートフォリオを入れ替えて「新生ソニー」を作りだせる可能性があったのではないでしょうか。

丸山:たらればの話だけど、仮にSCEがソニーよりも大きな存在になって、ソニー本体を吸収する可能性があったとしたら、そうなっていたかもしれない。

 実際に久夛良木とは酒を飲みながら、「SCEを大きくして、“ソニーご本社さま”を吸収しちゃおうぜ」って話してたから。そういう場には伊庭さんもいて、ニヤニヤ笑って聞いていたよ。本当にやるかどうか、できるかどうかは別として、そのくらいの気概を持ってSCEの経営やプレステの開発をやっていたってわけだ。

 プレステ3(PS3)に搭載した半導体「セル」がうまくいっていれば、日本の半導体産業は盛り上がって、その後の半導体産業史が変わっていたのかもしれない。そんな威勢のいい話をしていたのは、プレステ2(PS2)を発売する直前だったかな。その時期には、次のPS3をどんなコンセプトや仕様にするか、考え始めていたからね。

 「セルが成功したら、とんでもないことが起こるぞ」って話していたな。で、「そうなったらソニーなんて、吸収合併だよな。(ソニーの本社がある)品川じゃなくて、これからは(SCEの本社があった)青山の時代だ」なんて言っていたよ。そうなっていたら、まさしくソニーが既存の路線を壊して転生し、エンタメやソフト中心の経営にまっしぐらということになっていたんだろうな。

 ところが、だ。人間っていうのは不思議なもので、そんなこと言っていた久夛良木が、いつしかソニーの社長を目指し始めちゃったんだよ。俺は「前に言っていたことと違うじゃない」って思ったよ。「SCEを大きくしてソニー本社を吸収して、そのトップに立ってやろう」って言っていたのに、SCEが本体を吸収する過程を飛び越して、ソニー本体の社長になりたいと思い始めたんだからさ。

 あいつにもいろいろと人生の設計図があったと思うけど、俺からしたら、SCEに久夛良木がドシンとい続けて、立ち行かなくなったソニー本体がSCEに転がり込んでくるのを虎視眈々と狙っていてほしかったよね。

 SCEの創業者で社長をやっていたんだから、“レガシーのソニー本体”なんて気にしないで、SCEを大きくすることを目指してほしかった。「『新世代のソニー』といったら、もう井深さんや盛田さんが創業者なのか、久夛良木が創業者なのか分からない」って言われるくらい大胆にやってほしかった。そんなチャンスが芽生えた時期でもあったんだ。