会社や事業には寿命がある

平井社長が経営者になるために、丸山さんは平井社長に何か具体的な教育を施しましたか。

丸山:当時は毎週、出張時に米国人スタッフに話さなくちゃいけないことを、事前に日本語で平井さんとハウスにレクチャーしていたんだよ。ニュアンスを間違えずに滞りなく通訳してもらうために。

 そうすると2人は、SCEの中枢である東京本社の全体戦略や経営方針、考え方がものすごく細かく頭の中に入るわけ、きちんと通訳しなきゃいけないから。それは経営者として勉強になったと思うよ。

 その後、当時のSCE米国法人のトップに平井さんが就いて、ハウスがナンバー3になった。そして平井さんがSCE社長をやった後はハウスがSCEの社長になり、今はSIE社長としての現在に至っている。

 そういう意味では、確かに平井さんがソニー本体の社長に抜擢されるきっかけを、俺が作ったと思われるのは仕方がないことなのかもしれない。だけどソニーOBの中には、ソニー本体の社長に就くよう、俺が平井さんを後押ししたと勘違いしている人もいてさ。時には、「お前が平井を偉くしたんだから、彼に忠告したらどうだ」とか、苦情や文句を言ってくるわけ。

現状のソニーの経営に満足していないOBが多いということでしょうか。

 さっき、「ソニーの社長」をやりたいだけの人がトップに就いていた時代が長かったからソニーは凋落したとか、優等生ばかりになったから保守的で新しいことをやらなくなってソニーはダメになったとか、そんな話をしたよね。だけどソニーが輝きを失った本当の理由は、別にもあると俺は思う。

 それは会社や事業には寿命があるということだよ。

 会社が出来たての頃は、若くて伸びも早い。けれど、いずれはピークを迎える。そしたら後は下がるだけ。会社には、人間と同じようにライフサイクルがある。あらゆるものがそうなんだから仕方ない。どんなに若い時に元気で勢いのある人間でも、長生きして100歳近くなればヨタヨタしてくる。

 人間に寿命があることはみんなが理解している。そして、「会社は永続させなければならない」という言葉が、広く世の中に出回ってる。けれど、そんなことは無理な話なんだよ。

 会社の看板が残って、確かに会社がそのまま生き続いていくように見えているけど、同じ事業のままでいつまでもやっていけないよ。そういうことを理解しない若いやつが多いから、新卒の時にピークを迎えている会社に入りたがるんだ。

 だけどさ、入社した時にピークを迎えている会社は、自分たちが勤めている間にピークを過ぎて落ちていく。それだけ会社の寿命が意識されていないってことだろうね。

事業も産業も栄枯盛衰

丸山:会社の事業も、会社が属する産業も栄枯盛衰だし、環境が変わるのは避けられない。だからこそ、古くて儲からなくなった事業はさっさとやめて、次の事業を始めなければならない。

 会社が元気に長生きするには、事業の中身を変えて存続させることが必要なんだ。自社内で変えられないならば、子会社を作って新しいことをやる。自分が在籍する企業で新しいことができないなら、そこを飛び出して新しいことをやるしかない。そうすることで、自分が在籍した会社のDNAが、別の会社で引き継がれていくかもしれない。

日経ビジネスも随分以前に、「会社の寿命は30年」と提唱しました。

丸山:ソニーがずっとエレキの星であり、革新を続けてほしいという気持ちは分かる。ソニーは戦後の日本の希望の星だったわけだから。ある程度は年を食った人たちは、「ソニーはエレキ事業で革新的な製品を生み出して、ずっと元気で輝いていてほしい」と思っているよね。

 それは分かりやすく例えると、家族がみんな「大好きなお父さん、いつまでも元気でいてね」という程度の希望と同じだよ。もちろん、そうあってほしいだろうけど、お父さんだって年をとって、いずれは死んじゃうよ。

 人も事業も会社も年はとる。「ソニー本流のエレキ事業を軽視している」って、ソニーOBは今の経営陣を非難しているけれど、エレキが本流だったソニーは寿命のピークを過ぎて、取り巻く世の中も変わったんだよ。確かにエレキで輝いていたソニーを知っている人にとっては今の現実は辛いよね。

 ソニーのピークは、やはり大賀さんが社長をやってた時代だろうからね。