「ソニー本体には序列意識が強かった」

テレビ事業が象徴的ですが2013年度まで10年間にわたり赤字で、ソニーの連結業績も黒字と赤字を行ったり来たりして、長らく低迷が続きました。2015年度は3年ぶりの最終黒字となり、ようやく業績は回復してきていますが、「革新的な商品を出しているわけではなく、リストラ効果が効いているだけで、本格的に復活したわけではない」という社内外の声は少なくないです。かつてのように、ソニーが世の中を驚かせる製品を生み出せなくなった原因は何なのでしょうか。

丸山:そんなことを分析する立場に、俺はないよ。基本的にソニーグループの中で、俺は大物でも何でもないからさ。

 プレステの立ち上げに成功した頃は、俺がソニーグループ内で若干の影響力があったことは否定しない。けれど、だからといってソニーグループ全体の中で「丸山はキーパーソンだ」と当時のソニー本体の人たちが思っていたかっていうと、そうは思っていなかったよ。所詮は子会社のSME出身だから。

 ソニー本体と子会社って、そういう序列関係みたいな意識が強かったから。特に、音楽みたいなソフト事業をやっているやつなんて、本流のエレキ事業のハード屋さんにしてみたら「頭の悪いバカばっかりだ」と完全に下に見ているからさ。

栄光を支えた“とがったクイ”のような先達

 井深(大、ソニー創業者)さんや盛田(昭夫、ソニー創業者)さん、大賀さんといった創業者世代が率いていたソニーが元気だったのは、その頃のソニーに集まった人が、頭がいいだけじゃなくて、度胸もあったからだよ。いわゆる今の有名大学を卒業したような優等生ではないからさ。2000年くらいに、続々と引退していった創業者世代を知る人たちがすごかったんだよ。

 創業者世代を支えた、そういうすごい人たちっていうのは、元々ほかの会社に勤めていた人が多かった。盛田さんや大賀さんなんかが、そうした人たちの腕を見込んで、あちこちから「おまえ、ソニーに来いよ」って集めてきたんだ。

 あとは、ソニーになる前の東京通信工業っていう社名で、みんなが知っているような会社ではない時期に、あえて入ってくるような変わり者だよ。ソニーが使っていた言葉を引用すると、「とがったクイ」な人たちだし、度胸のある人ばかり。悪く言えば「乱暴者」だよね。でも、そういう個性あふれる人たちが、創業者世代が率いたソニーを元気にしていたんだ。

確かに2000年初頭頃が、ソニーの大きな転換点だと思います。その頃、創業時のキーパーソンが一線を退き、内部の人たちがほぼ創業者世代と入れ替わってしまった。

丸山:創業者世代の後に新入社員としてソニーに入ったプロパーの連中は、ソニーが大企業になって、ちょいと名前が売れてから入ってきているから、まあ優等生だな。そういう優等生は大概、自分だけでは大したことはできないんだけれど、プライドは高くて、「ご本社意識」も強くなって保守的になっていく。

 昔の乱暴なメンバーたちが普通にやっていた大胆なことやおもしろいことは、段々やらなくなっていくよね。つまり、度胸がなくなっていくんだよ。

 プレステ立ち上げの頃っていうのは、SCEの創業期だから、頭の良さは程々でよくて、むしろ度胸のあるスタッフを集めたんだよ。でもそれって、そんなに間違っていないわけ。ゲームというソフトビジネスで、頭がいいなんてことは最優先事項じゃないからね。

 会社創業時の人材に必要な資質は「頭の良さ1割、度胸9割」だよ。でも会社が成長していくに従って、人材の質が変化して「頭の良さ9割、度胸1割」の社員が増えてくる。

なぜ平井社長が苦戦したのか

丸山:で、今は、そんなソニーのトップに平井(一夫、現ソニー社長兼CEO)さんがなっちゃったわけだろ。本流意識が強くて、普通に頭のいいハード屋の人たちは、ソフト屋で音楽系子会社出身の平井さんの言うことなんて本気で聞かないよね。だから平井さんが社長になったばかりのソニーは迷走していたんだよ。

 ソニー本体の人たちは、平井さんのことを誰も尊敬していないと思うよ。まあ、その流れは、平井さんの前にCEOとかをやっていたストリンガー(ハワード・ストリンガー、ソニー会長兼CEOや会長兼社長兼CEOなどを歴任)の時からそうだよね。ストリンガーがソニーの社長やCEOになってから、「何もハードのこと分かってねえよな」って思われる人間ばかりが経営トップに就いて、下の連中が誰もトップの言うことを聞かなくなった。その結果、組織がおかしくなって長らく業績が低迷を続けたってことじゃないか。

確かに、ソニーの業績が回復してきたのは、吉田(憲一郎、現ソニー副社長兼CFO)さんが、子会社のソネットからソニーに戻ってからのことです。社内の人に聞くと「吉田さんは勉強家で言うことも分かりやすいので、みな従う」と評価は高い。投資家やアナリストにも「吉田さんがソニーに戻ってから業績の開示が良くなり、プレゼンテーションや説明も明快になった」と評判です。吉田さんの功績は大きく、平井さんだけでは今のソニーの業績改善はなかったかもしれません。

丸山:わけのわかんないストリンガーの覚えがめでたくて、彼に可愛がられていた平井さんがトップになっちゃった。だから平井さんがどんなにまっとうな意見を持っているかどうかとか、今の彼の持っているポリシーが正しいかどうかも関係ない。国家でも企業でもそうだけど、それなりに大きな組織を統治するには、トップと部下の間で、何らかの一致点というか共感できる部分が必要なわけ。

 具体的には、「あの人の言うことはよく理解できるから、信じて従おう」とか、「あの人はやっぱりポイントが分かっているよな。だから信用して、ついていこう」みたいな共感というか。自分との一致点を部下に感じてもらえないと、大きな組織のリーダーシップはとれないんだよ。

 それなのに、そういうことを理解しないまま平井さんがソニーの社長を引き受けてしまったのは軽率だったなと、俺は思っているわけだよ。案の定、平井さんは当初、ソニーをうまく経営できずに、社内外からいろいろ批判されて、苦労していた。

(中に続く)