昨年6月に誕生したドゥテルテ政権の鉱山政策が世界から注目を集めている。「責任ある鉱山開発」を掲げ、監督官庁である環境天然資源省(DENR)の長官に環境活動家のジーナ・ロペス氏を任命した。ロペス長官は就任直後から9月までに10の鉱山に操業停止を命令。さらにすべての鉱山に対する監査を実施して、41の鉱山のうち30が基準違反を犯していると断じた。

 フィリピンはステンレスの製造に必要なニッケルの最大生産国だ。ステンレスは腐食や酸化に強い耐性を持ち、100円硬貨などにも使われている。もしニッケルの供給が不足する事態となれば、世界の産業界にどれだけの影響が広がるのか。詳しくは2月6日号の特集「元素が買えない 自国優先主義が招く危機」で解説した。

 本稿では、フィリピンのニッケル生産最大手、ニッケル・アジア・コーポレーションのジラード・ブリモ社長のインタビュー記事をお届けする。同国におけるニッケル生産量のうち約4割を同社が占める。特に日本向けに輸出されるニッケルに限れば、シェアは7割に達するという。

 同社はDENRの監査をパスし、1月11日にフィリピンでブリモ社長にインタビューした際には、自社の鉱山開発の正当性を強調していた。環境保護活動に関しても「鉱山開発に反対すること自体が目的化している」と辛辣に批判した。しかし、現地報道によると、2月2日にDENRが発表した監査の最終処分では、傘下の鉱山会社が停止命令の対象になった。多くの鉱山開発会社も処分に反発しており、反対派と鉱山会社の争いが激化することは必至だ。

(聞き手は寺岡 篤志)

【記事のポイント】

  • ●ニッケル市況の変化
  • ●「我々の鉱山に何の問題もない」
  • ●バッテリー向けのニッケル需要が拡大

ニッケルの市況が大きく変化しています。

<b>ジラード・ブリモ氏</b><br />ニッケル・アジア・コーポレーション社長兼CEO(最高経営責任者)。マンハッタン大学卒業後、フィリピンのアジアン・インスティテュート・オブ・マネジメントで経営学修了。1985年よりフィリピン最大の資源会社、フィレックスマイニングで副社長、会長を歴任。2010年より現職。
ジラード・ブリモ氏
ニッケル・アジア・コーポレーション社長兼CEO(最高経営責任者)。マンハッタン大学卒業後、フィリピンのアジアン・インスティテュート・オブ・マネジメントで経営学修了。1985年よりフィリピン最大の資源会社、フィレックスマイニングで副社長、会長を歴任。2010年より現職。

ブリモ氏:2016年最初の半年はニッケル価格の低迷に苦しんできました。2月には13年ぶりの安値をつけた。どのニッケル企業にとっても大きな経営問題だったはずです。

 しかし、後半の半年は市況がやや改善しました。2016年は1900万トンと前年と同水準のニッケル鉱石を生産しました。安値のために稼ぐ力は落ちてしまいましたが、利益は確保できました。

昨年の6月頃からニッケル価格は上昇しています。ドゥテルテ政権の誕生と時期が一致しています。

ブリモ氏:基本的には中国のステンレスの生産が好転したことが原因だと思っています。今のところは政策の影響が、非常に大きいということはありません。環境天然資源省(DENR)の監査で基準違反を指摘された30の鉱山のうち、実際に操業停止となっているのは一部だからです。しかし、どの鉱山が操業停止となるか、罰金が科されるか、その最終判断が近く下される予定です。実際、何が起きるのかまだ分かりません。(注:DENRは2月2日、ニッケル・アジア・コーポレーション(NAC)の子会社、ヒナトゥアン・マイニング・コーポレーションを含む21社に操業停止を命じた)

最終結果の公表も年内と言われていましたが、遅れています。(注:インタビューは1月11日に実施)

ブリモ氏:操業停止を命令するのは、本来非常に難しい問題のはずです。雇用や地域社会への影響がどれだけあるのかを考えると、簡単な決定ではありません。

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【インタビュー後半のポイント】

  • ●「我々の鉱山に何の問題もない」
  • ●バッテリー向けのニッケル需要が拡大
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