日経ビジネス2月6日号の特集「元素が買えない」では、世界各国で自国優先主義が台頭し、調達リスクが顕在化しつつあることを指摘した。本稿では、国家プロジェクト「海のジパング計画」で沖縄海底を調査する探査船「ちきゅう」の航海記を掲載する。

 海のジパング計画の正式名称は、次世代海洋資源調査技術。内閣府が手掛ける戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つであり、数十億円の国家予算を投入する。狙いは、海底下に眠る“宝の山”を掘り当てること。その一つと期待されるのが「海底熱水鉱床」だ。深海底から噴出した金属が沈殿してできた海底の鉱山である。

 「黄金の国ジパング」と呼ばれた日本はかつて、世界有数の金銀銅の産出国だった。だが、陸上資源は枯渇し、現在では金属資源のほぼ100%を輸入に頼る。海のジパング計画は、日本がもう一度資源大国になるための壮大な計画である。

 海底探査の最大のハードルは、正確な場所と効率的な調べ方が分かっていないこと。プロジェクトの推進役である国立研究開発法人・海洋研究開発機構が保有する探査船「ちきゅう」などを使って、調査技術の開発を進めている。

 昨年末、30日間の航海に出た探査船「ちきゅう」は、海の底で何を見たのか。

2016年11月16日@高知

 午前4時半。まだ夜が明け切らぬ高知新港に巨大な船が停泊していた。無数の光を点滅させている様は、まるで大規模な工場のようだ。

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する地球深部探査船「ちきゅう」。水深2500mの海底に穴を開け、そこから地中を7000m掘削できる世界最先端の探査船である。ちきゅうはこの日、海底にある「元素の宝の山」を見つける旅に出ることになっていた。

 出港まで残り4時間。最後の安全確認のため、船員が慌ただしく走り回った。

夜はまるで「工場」のように見える、地球深部探査船「ちきゅう」(写真:山下 隆文)
夜はまるで「工場」のように見える、地球深部探査船「ちきゅう」(写真:山下 隆文)

 もはや国内の陸上資源は掘り尽くした。日本が再び「ジパング」として輝くためには、海底に活路を見いだすしかない。

 ターゲットは明確だ。沖縄海域に存在する「海底熱水鉱床」。海の底の地中深くから噴出する金属成分が沈殿した、海底の鉱山だ。金や銀、亜鉛に加えてガリウム、ゲルマニウムなどの希少資源を豊富に含んでいる。

 ちきゅうに課せられた使命は、海底熱水鉱床が生まれるメカニズムを解明すること。その原理が分かれば、日本周辺のどこを集中的に掘ればいいか推測できる。本格的な産業化をにらんだ調査航海である。

 16日午前9時。明るくなった高知の海で、ちきゅうはいかりを上げた。長い3度の汽笛が鳴る。「長3声」と呼ばれる、見送りに対する礼を兼ねた慣習である。この汽笛が、沖縄海域に向けた30日間の航海の始まりを知らせた。

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