
本誌1月23日号の特集「トランプに負けるな! トヨタ、GE、ダノンの動じない経営」では、グローバリゼーションの修正が始まる時代に企業が成長し続けるカギは、「サステナブル経営」にあると位置づけた。連載第5回は、花王の澤田道隆社長に話を聞く。
花王は昨年12月、中期経営計画を発表。アナリスト向け説明会で、澤田社長は「2030年までに世界3位を目指したい」と宣言した。その決意の背景には、売上高や営業利益率といった財務的な指標以上に、「サステナビリティー」の観点で、米P&Gや英蘭ユニリーバといった世界の強豪と比べても、十分な存在感を発揮できる会社になりたいという、強い思いがある。
花王が考えるサステナブルな経営とは何か。「ようするに、コケない経営」と言う澤田社長に考えを聞いた。
【記事のポイント】
- ●「ハイビーム視点」「こだわり」「つながり」
- ●「サステナビリティー」に四半期決算は弊害
- ●社会に向き合い「コケない」ことが最も重要

澤田道隆(さわだ・みちたか)氏
1955年大阪生まれ。81年、大阪大学大学院修了後、花王石鹸(現・花王)入社。一貫して研究開発畑を歩んできた。2003年サニタリー研究所長、2006年研究開発部門副統括・執行役員、2007年ヒューマンヘルスケア研究センター長、2008年取締役執行役員、2012年から現職。(写真:的野弘路、以下同)
花王は、機関投資家が連携したNGO(非政府組織)、英CDPの水資源保全に関する格付けで最高ランク(CDPウォーター2016 Aリスト企業)を得るなど、サステナビリティー(持続可能性)に関する取り組みでは、外部から一定の評価を得ています。投資家からの評価も変わってきましたか。
澤田道隆社長(以下、澤田):最近はESG(環境、社会、ガバナンス)への関心が高まっていることもあり、これらの観点の質問も増えてきました。花王が掲げている「利益ある成長」という考え方だけではなく、社会のサステナビリティーへの貢献についてもどういう考え方を持っているのかを聞くことで、投資判断に生かしているようです。
私が社長になった2012年頃は、中長期的な話でも売上高や利益が5年先にどうなっているとかと言った、財務的な指標への関心が高かったですが、2年ほど前から非財務的な話にかなりの重きが置かれるようになってきました。花王としても、非常にいい方向になってきたと思います。私もつい、話が長くなってしまう。
それだけ、サステナビリティーへの思いが強いということでしょうか。
澤田:私の思いも、投資家の思いも、両方が盛り上がってきているということでしょう。日本でも世界でも、投資家が中長期でものを考える上で、ESGの考え方が有効だと考えられています。ただ、私たち企業としては、その一歩先を行かないとダメだと思っています。花王は、サステナビリティーをずっと意識してきましたが、戦略にどこまで織り込めるかという点が、経営で非常に重要な位置を占めてきています。
私は、サステナビリティーを重視する経営には、3つのポイントがあると考えています。「ハイビーム視点」、「こだわり」、そして「つながり」です。
まず、ハイビーム視点というのは、遠くを見て考えるということです。サステナビリティー、日本語で言えば持続可能性を実現するには、企業としても、社会としても、短期志向ではもう絶対に無理です。環境、社会、経済…。いずれをとっても、10年、20年先を見て、自分たちが企業として、どのように社会の役に立つか、その上でどのように利益ある成長を続けるかという問いの答えは、ハイビーム視点でなければ導き出せません。
そういう意味で私は、そろそろ四半期決算のあり方を考え直さないといえないと思っています。四半期決算を基に企業を評価するというのは、ものすごく短期志向でしょう。
2017年は創業130周年、花王石けんの発売から数えれば、2020年が130周年になります。いずれにしても、既にこれだけ成長が持続しているわけです。それを四半期の業績で評価が左右されるようでは、おかしいでしょう。せめて、5年先、10年先、20年先はどうなのかという視点で判断してもらいたい。そういう思いを込めて、今回、2020年に向けた中期経営計画「K20」の中で、2030年までに目指すべき姿を明示したのです。本当は、もっと先を見せたかったのですが、それ以上先は、さすがに見えない部分も多いですから。
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