政府は大規模かつ効率的に社会課題を解決できない

とはいえ、多くの経営者は今でも、社会課題の解決のような取り組みは、儲かっていて経営に余裕があるときにだけできる、特別なものだと考えているのではないでしょうか。

ポーター:確かに、そうした見方はこれまではとても自然なものでした。歴史的に、“善い行い”には余計なコストがかかるもので、利益を減らすと考えられてきました。

 しかし、製品を差別化したい、サプライチェーンを効率的にしたい、従業員に生産的になってもらい、しかも会社に忠誠を誓ってもらいたいと考えるのなら、共通価値の創造を追求することは合理的な判断です。そのことは既に、様々な事業の経験や調査・研究などから明らかになってきています。

 どのような企業も、その活動は社会や世界に影響を及ぼします。しかし、企業はそれによる生じるコストを払うことを避けようとしてきました。古典的な例が公害です。25年ほど前は、「公害は利益になる」と信じられていました。ともかく、ゴミを出すコストを負担しないことが、より多くの儲けにつながるというわけです。そのため、企業が公害を出さないように、当局が厳しい規制をかけることが必要となったわけです。

 しかし、今では公害を出すことが利益につながらないことを、私たちは学んでいます。実際、公害を出せば利益は減ります。エネルギーや天然資源を無駄使いしたり、トラック配送をやり過ぎたりすれば、余計なコストが掛かり利益を圧迫しますよね。

 これは明らかに革新的な発想の転換です。もちろん、昔の考え方はまだ完全には死に絶えてはいません。社会的な課題解決と経済的な目標はしばしば衝突するという見方は、なかなか無くなりません。

 それでも、ネスレのような共通価値の創造を戦略の中核に内包している企業は、もはやそうした見方のずっと先を行っており、社会課題の解決こそがビジネスの大きな機会になると認識しています。

 この知性的な変革を企業が成し遂げれば、(企業が市民から憎まれる対象ではなく)企業が最も尊敬される機関となる新しい時代を作り出すことができるでしょう。政府が何かをしようとすれば、税金を徴収しなければなりませんし、NGO(非政府機関)も寄付を必要とします。つまり、政府もNGOも、効率的に物事を大規模に展開することが上手くできないのです。

 つまり、これからの時代は、企業が社会変革で最もパワフルな機関になる。それは、これまでの時代では見られなかったことです。

資本主義は社会に有用。その信念は変わらない

環境破壊が進まないようにしたり、格差を是正するように富を再配分したりする役目は、これまでは政府が担うものだと考えられてきました。政府が最もパワフルな機関ではないのですか。

ポーター:政府は、大規模に、しかも効率的にサービスを展開するようにはデザインされていません。政府の役割は、そうではないのです。政府の役割はルールを設定すること。しかし、これまで私たちは、社会課題の解決において、あまりに政府に依存してきました。

 これから私たちにとって必要なことは、民間セクターを社会課題の解決に呼び込んでいくことです。なぜなら、資金を持っているのは民間ですから。その規模は、政府もNGOも全く及びません。民間セクター、つまり企業こそが、社会課題の解決の主役になれるのです。

 これまで、しばしば企業は政府やNGOと衝突してきました。これからやらなければならいことは、企業も政府もNGOも、協力することです。非常にエキサイティングな時代になると思いませんか。

 私は、長期的には多くの社会課題が解決されていくと、基本的に楽観視しています。世界銀行のジム・キム総裁のようなリーダーたちも、そのことを理解しています。世界銀行はかつて政府に融資を提供するのが主な仕事でしたが、今では民間セクターにも資金を提供しています。

 これこそが、今日、私たちに問われている課題です。社会の様々な機関の役割をこれから再整理し、改善し、高めていくことが求められますが、その中でも企業の役割は極めて大きい。私は根本的に、資本主義が社会に有用なものであることを心から信じています。今、様々な疑念や懸念が生まれていますが、この信念は変わりません。

■訂正履歴
本文中2ページで「進歩主義的な税制」としていましたが、「累進的な税制」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/1/23 12:30]