自ら新興国の現場を見て回る
サニエレス:エシロールには、「Improving Lives by Improving Sight」というミッションがあります。視力矯正を通じて、人生をより良くするという意味です。しかし、新興国の状況を見るにつけ、我々はそれまでのチャリティーを通じた支援の効果に疑問を持ち始めました。果たして、チャリティーだけで彼らの人生を豊かにしていけるのだろうかと。
その疑問を解消するため、私自身が現場に足を運びました。2010年から2012年にかけて、インドやアフリカなどの現場を、自分自身の目で確認することにしたのです。
そこで見たのは、「視力」が、意外なほど軽視されている実態でした。我々は、視力が弱ければ仕事にならないことを自覚しています。視力が悪ければ、自動車の運転や精密機械の操作などは、もってのほかです。しかし、新興国の人々は、視力が悪いという自覚すらないのです。
もともと、視力の矯正は高齢者の問題でした。しかし最近は、スマートフォンの普及などによって、視力の悪化が若い年代でも問題になりつつあります。
こうした問題が解消されなければ、やがて経済にも大きな損失になると。
サニエレス:ただ、新興国で現場を見た時は、それは私の直感に過ぎませんでした。それを経営として捉えるためには、しっかりとリサーチする必要があります。まずは、我々のチャリティー活動の効果を測れないかと考えました。
そこで、コンサルティング会社と協力して調査することにしたのです。当時、既に新興国で無料の眼鏡を配布して10年ほどが経っていました。過去に配布した眼鏡の利用者から1000人を選び、追跡調査をしました。眼鏡を使い始めた後、どのような影響があったのか調べたのです。
その結果、眼鏡配布から5~7年経った人の87%が、「眼鏡を持ったことで、人生が変わった」と答えました。その理由は、「視力が矯正された結果、ガラスの破片を踏んでケガをしなくなった」というものから、「新しい仕事を見つけることができた」というものまで、様々でしたが、おおむね、彼らの人生が良い方向に変わったとの声でした。
実際に現場を見ていたこともあり、私はこの声を真剣に捉えました。そして、さらに調査を進めました。その結果、世界で視力の矯正が必要な人口は、世界75億人のうち、25億人に達していることが分かりました。さらに、その9割以上は新興国に住む人々でした。
残念なことに、将来のシナリオは明るいものではありませんでした。世界がこの状況に対して何も対策をとらない場合、視力の矯正が必要な人口は、2050年には35億人まで増えると予測されました。一方、これから対処して、年5000万人の視力を矯正し続けることができれば、15億人にまで減る可能性があることも分かりました。
さらに、世界保健機関(WHO)の調査などを分析すると、視力が矯正されていないことで失われている経済損失は、約2720億ドル(約31兆円)に達することが分かりました。視力の弱い人を救うだけで、世界はもっと成長できる。これこそが、「Improving Lives by Improving Sight」をミッションに掲げる我々が取り組むべき課題だと確信したのです。
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【インタビュー後半のポイント】
- ●ミッション(理念)を経営につなぐ責任者
- ●「制約」がイノベーションを生む
- ●株主も急成長より持続的な成長を理解
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