
本誌1月23日号の特集「トランプに負けるな!」では、グローバリゼーションの修正が始まる時代に企業が成長し続けるカギは、「サステナブル経営」にあると位置づけた。連載第3回は、メガネ用レンズ世界大手、仏エシロール・インターナショナルの会長兼CEO(最高経営責任者)、ヒューバート・サニエレス氏に話を聞く。
エシロールの日本での知名度は高くないが、売上高は10期以上過去最高を更新する知られざる優良企業だ。1月16日には、「Ray-Ban(レイバン)」「Oakley(オークレー)」などのブランドを持つメガネ世界大手であるイタリアのルクソティカとの合併を発表した。合併後の両社の売上規模は、150億ユーロ(約1兆8000億円)を超える。
規模拡大と同時に、エシロールが進めているのが、ローカリゼーションの深掘りだ。2013年に、インドで「EYE MITRA(アイミトラ)」と呼ぶプロジェクトを開始。狙いは、眼鏡店の経営者人材を育成し、インドの地方に眼鏡店を増やすことだ。長期的にコミットし、地元の人と共に新たな経済圏を築くことを目指す。「決してチャリティーでやっているわけではない」と語るサニエレス会長兼CEOに、戦略の真意を聞いた。
【記事のポイント】
- ●チャリティーだけでは社会は変わらない
- ●トップ自らが現地を訪れ社会課題を認識
- ●社会の難題こそがイノベーションを加速

ヒューバート・サニエレス(Hubert Sagnières)氏
1989年入社。カナダ、米国法人の社長を経て、2008年COO(最高執行責任者)、2010年CEO(最高経営責任者)。2012年1月から会長兼務。「Improving lives by improving sight」をミッションに、社会課題の解決と利益成長を両立させる経営を実践する。2017年1月16日、メガネ大手のイタリアのルクソティカとの合併を発表した。合併後の新会社では、副会長に就任する予定。
インドで2014年から、「EYE MITRA(アイミトラ)」と呼ぶ人材育成プログラムを始めています。狙いはどこにあるのでしょうか。
ヒューバート・サニエレス会長兼CEO(以下、サニエレス):あまり知られていませんが、インドでは今、国民の視力悪化が社会問題になっています。視力が悪いまま自動車を運転して事故を起こしたり、工場現場の作業で部品を取り違えてミスをしたり。それらが積もり積もって、社会の大きなコストになりつつあります。一方で、自分自身の視力が弱っていることを自覚していない人も多い。特に、眼鏡店や眼科のない都市郊外では、そうした人が増えています。
インドで2014年に開始した「EYE MITRA(アイミトラ=目の友達)」プロジェクトは、この社会課題を解決するために開始しました(詳細は特集PART1を参照)」。眼鏡店を開業できる人材育成を通じて、インドが抱える課題を解決し、かつ我々も成長を目指すものです。
エシロールは1972年にフランスのレンズメーカー2社が合併して誕生しましたが、その起源は1881年までさかのぼります。当時から、「Vision(視覚)」にまつわるビジネスを一貫して展開してきました。インドやアフリカといった新興国にも90年代から拠点を築いていました。ただ、新興国の経済規模は先進国よりもやはり小さい。このため、眼鏡の無料配布や無料の視力検査など、チャリティーを通じた啓蒙活動を続けるケースが多かったのです。
そんな状況が変わってきたのが、2000年代後半からでした。新興国でも目覚ましい経済発展が始まりました。都市部ではビジネスが活発になり、先進国と変わらない収入を得る人も出てきました。しかし、都市部を離れた郊外では、依然として所得の低い人が大勢いる。そして、冒頭に述べたような問題が顕在化していたのです。
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