本誌1月23日号の特集「トランプに負けるな!〜トヨタ、GE、ダノンの動じない経営」では、トランプ氏の大統領就任が象徴するグローバリゼーションの修正が始まる時代に必要なのは、企業と社会が共に価値を共有し続ける「サステナブル経営」であると位置づけた。Web連載の第2回は、「社会のため」に事業構造をガラリと変えた食品世界大手、仏ダノンのエマニュエル・ファベールCEO(最高経営責任者)のインタビューを掲載する。
ダノンは、「経済成長と社会貢献の両立」という企業哲学を掲げる。そのトップのファベール氏は、「世界経済フォーラム(通称、ダボス会議)」に対抗して始まった、社会活動家などが集まる「世界社会フォーラム」にも参加したことがあるなど、“社会派”のCEOとして知られる。ファベール氏は、「従来型のグローバリゼーションは限界にきている」と主張。人類の「食」に貢献すると同時に、生態系の保全に注力する。
【インタビューのポイント】
- ●米国もバングラデシュも格差問題の本質は同じ
- ●「One size fits all」のビジネスモデルの終焉
- ●「社会のため」という理念に沿って事業構造を変革
エマニュエル・ファベール(Emmanuel Faber)氏
コンサルティング会社を経て1997年ダノングループ入社。99年にCFO(最高財務責任者)に就任。2000年からダノングループの執行委員会、2002年から取締役会メンバー。2007年に共同COO(最高執行責任者)。2014年、同社初の非創業家出身のCEOに就任。2009年に新興国支援のダノンエコシステムファンドを立ち上げるなど、社会貢献に対する関心が高い。
世界で今、かつてないほど反グローバリズムの機運が高まっています。
エマニュエル・ファベールCEO(以下、ファベール):グローバル化が転機を迎えているのは確かでしょう。
この50年、グローバル化は急速に進み、それは我々に功罪の両方をもたらしました。「功」で言えば、グローバル化の進展は、貧困にあえぐ国々の経済を底上げし、飢餓に苦しむ人々を減らしました。多くの国で、生活は確実に豊かになっています。
一方、この10年ほどで、グローバル化の限界も見えてきました。人々に豊かさをもたらした資源の多くが消費し尽くされ、枯渇の危機にさらされています。気候変動も、もはや誰もが他人事に出来ない状況になりました。
貧困問題も、完全に解消されてはいません。豊かさに格差が生じ、同じ国の中でも、「持つ者」と「持たざる者」が存在するようになりました。状況はより複雑になっています。
そうした複雑な状況の結果が、昨年の英国の欧州連合(EU)離脱やドナルド・トランプ大統領誕生につながったと。
ファベール:格差に対する不満が世界で表面化しているのは間違いないでしょう。今では格差問題は、新興国でも先進国でも起きています。欧州や米国とバングラデシュで起きている格差問題の本質は同じです。グローバリズムに対する疑心暗鬼はかつてないほど高まっていることに違いはありません。
食品業界、カロリー当たりのコスト削減はもう限界
世界をより豊かにしてきたはずのグローバル化が、なぜ、このような状況を招いてしまったのでしょうか。
ファベール:私自身が属している食品業界を例に説明しましょう。
50年ほど前に遡れば、食品業界は世界のより多くの人を飢えから救うため、できるだけ安いコストで、食料を供給することを目指していました。それは究極的には、人の摂取カロリー当たりにかかるコストを減らすことに等しくなります。
では、カロリー当たりのコストを大々的に減らすにはどうすればいいのか。最も効率的なのは、規模の経済を働かせることです。大量に生産して、大量に供給し、広く行きわたらせる。規模のメリットを生かせば、単位当たりのコストは劇的に下がります。大量生産、そして大量消費。かくして、量を追う時代が長く続くことになります。
この発想が生まれた米国では、農業、生産、加工など食産業のあらゆる工程で規模を追うビジネスが進化しました。もともとは、自国民の食料を賄うことが目的でしたが、やがて世界にその手法と食料を輸出していくようになりました。
結果的に、世界の食産業が規模を追う流れが生まれたわけですね。その結果として、グローバル食品企業の誕生につながった。
ファベール:しかし、もちろん、規模をいつまでも追い続けることはできません。カロリー当たりのコストを抑える方策は、限界に近づいています。それが明らかになったのが、この10年だと思います。
今では、食料を大量生産しようにも、資源が足りません。世界各地で、肥沃な土壌が枯渇しています。食物の栽培や加工に使う水も同様です。地球資源はもはや50年前と様変わりしてしまいました。
さらにリスクが高いのは、人類が食料を数種類の「種」に依存していることです。例えば、植物では、トマトやトウモロコシなど、15ほどの種が、人類の消費の85〜90%を占めています。
人類の食料を、わずかな種類に依存することはとてもリスクが高いことです。その限られた種、例えばトマトやトウモコロシに問題が起これば、食産業のみならず、人類に大きな影響を与えます。一方で、これらの種をただ単に増やせばいいというものでもありません。生態系の法則で分かっているのは、すべては互いに影響し合うということです。仮に、ある種が急増すると、それは他の生態系にダメージを与え、最悪の場合、破壊してしまうこともあります。
ですから、これから大切なのは、人類が必要な食料だけを増やすのではなく、自然の生態系を全体で保全していくことなのです。我々はこの活動を、「アリメンテーション(栄養・滋養の意味)・レボリューション」と呼んでいます。国連とも話し合っている壮大な挑戦ですが、この取り組みなくして、世界の資源を維持していくことはできません。
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【インタビュー後半のポイント】
- ●「One size fits all」のビジネスモデルの終焉
- ●企業理念に合わせて事業構造を大変革
- ●長期的な視点こそ短期的な利益を生む
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