不透明感が高まる未来をどう見通すか。日経ビジネスの1月9日号の特集は「2017年紅白予測合戦」と題し、各界を代表する32人が「紅白歌合戦」方式で、2017年の日本から100年後の地球に至るまで大胆な予測をぶつけ合った。日経ビジネスオンラインでの連動記事では、そんな第一人者たちの中でも特に印象に残る「異色企業家」に、独自の視点から日本を取り巻く環境の変化や新たな産業の可能性などを読み解いてもらう。第3回は奇抜な商品ネーミングでヒット商品を出し続ける筑水キャニコム会長の包行均氏。2017年における自社および中小企業の生き残り策について聞いた。
かねゆきひとし 1949年生まれ。1973年父親の経営する筑水キャニコムに入社。「草刈機まさお」など独特のネーミングでヒット商品を連発し、世界45カ国に販路を持つ国際企業に育て上げた。2015年に社長を息子にゆずり会長となったが、現在も福岡・筑後が誇る「ネーミングの魔術師」として活躍中。(撮影:菅 敏一)
最近では筑水キャニコム(キャニコム)は「草刈機まさお」などヒット作を開発してきましたが、売れ行きはどうですか。
包行:そうやな、ウチは、農業・林業・建設向けに製品を作ってきて、最近では産業機械の「草刈機まさお」「芝耕作」「伝導よしみ」なんかを開発してきたけど、特に「草刈機まさお」は評判いいわね。
名前のインパクトだけが理由じゃない。赤と黄色を基調にしたF1風のデザインも目を引くし、性能面でも妥協はない。芝の長さも自在に調節できるし、30度の傾斜地でも苦もなく草を刈れる4輪駆動仕様。価格は高いんだけど、日本中の田畑を走り回っているよ。孫たちに自慢できるんだろうな。乗っている農家のおじいちゃんもみんなどや顔。我ながらいい製品を作った。自信作だよ。あと2015年や2016年はメガソーラーをそこらじゅうで建設してただろ。みんな建てたはいいが、雑草が生えてきてパネルの邪魔をするのを知らなかったみたいや。みんな「まさお」を買ってくれたわ。
「川中みゆき」以外に何がある!
2017年は「草刈機まさお」に続くネーミングの商品を期待しますが、案はありますか。
包行:そうやな、2017年は「川中みゆき」の時代やな。一世を風靡すると思うよ。
「川中みゆき」ですか? 何ですかそれは。
包行:キャニコムはこれまでの山や畑で使う機械だけでなく、これからは海や川向けの製品を出そうと思っている。まず市場があるとにらんでいるのが川の中を掃除するロボットだよ。これから先はさ、林業人口も減ってきて、山林や河川の管理も行き届かなくなってくる地区が増えてくる。すると、川の中は流木がたまっていたり、流れてきた木が根を張っていたりするようになるんだ。その分、水の流れるところが狭くなる。
そこへ豪雨が来たらどうなるか分かるよな。せき止めていた木やらゴミやらが大水で一気に流され、鉄砲水が起きてしまうのよ。2016年も鉄砲水によって全国各地で大きな被害が出ているよね。そこで川の中を自動的に掃除するロボットが必要なわけさ。国はダムとか堤防が決壊したら困るので、そこらの管理はしっかりやっているわけ。でもそこにつながっている川の中の管理は全然できていないのよ。
今、開発陣にハッパをかけているところだけど、もう製品名は決まってるよ。さっき言った「川中みゆき」。それ以外にいい名前ある? ないでしょ。ネーミングを先に決めたら、どんな商品なのかイメージが出てくるやん。イメージがわいたらデザインはこうですかねとか機能はこんなのが必要とか議論が始まって、新商品開発が進む突破口になる。まあ実際できたら名前は「川中島みゆき」とか「中島みゆき」とかになるかもしれんけど。
キャニコムは中小企業ながら海外45カ国へ販売するグローバル企業でもあります。同規模の中小企業が同じように生き残るにはどうすればいいでしょうか。
包行:今はアフリカに進出しようとしているから、そこを抑えたら一気に50カ国増える。そしたら95カ国や!アフリカのセネガル出身の社員も2人おるし、ますます海外進出は進むやろう。それはそうと中小企業の生き残り策な。俺も色んなところでそのテーマで講演してくれって依頼がくるんやけど、そこでいつも話しているのは中小企業が生き残るためには「DNB」が不可欠ってこと。こう言うとみんな笑うんだけど、Dはデザイン、Nはネーミング、Bはブランディングのこと。
これまで中小企業はこの三つをまったく考えず、上の企業の発注に従ってれば食っていけた。例えば自動車メーカーの部品を作る会社なら、メーカーの仕様に沿った部品を納めるだけだから商品のデザインなんて考える必要がなかった。ネーミングも車の名前は完成車のメーカーがつける。ブランドも相手のモノだった。それでやってきて立ち行かないなら逆をやるしかないってこと。
キャニコムもまさにそれ。他社に依存して厳しい思いをしたから、DNBで自社製品を作ってきたわけよ。これまでおおよそ中小企業には関係のなかったこの3つがないと小さな企業は存続できない時代が来ている。そういや最近は、インドネシアでの現地のユーザーのぼやきをもとに開発した製品が売れている。スコールのせいで雨土がドロドロの「湿地帯」でも「安全」に走れる運搬車だよ。名前? 「安全湿地帯」。これがセンスというものだ。
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