:今回はかなりファンタジーですよ。そもそも、機関車にナンバーがついてないですから。「この車両」というモデルはなく、ディティールも自分の中で合成したものです。裏表紙の赤い煙を吐く煙突は、松本清張の故郷、九州の八幡製鉄所です。時空を越えたイメージになっています。

そういえばそうですね。だったらそんなにゴハチのディティールに悩まなくても。

:でも、松本清張の小説世界って、決してふわーんとしたファンタジーなものではないですよね。リアルで、国鉄時代の、昭和臭いものです。その世界を著者の赤塚さんが、これまたがっちりと読み込み、ご自身のJR完乗体験も重ねて、データを分析して出来上がったのがこの本ですから、表紙の絵はそれに負けないような、ディティールをしっかりと詰め込んだものにしたいわけです。「国鉄感は、足回りを黒く塗って逃げたら出せない」と思った。

だから、機関車の足回りの部分も描き込んでいるんですねえ…帯で隠れちゃうけど、ぜひめくって見ていただきたい。

:今考えてみると、時間が無かったからできたところもあるかもしれません。“沼”の入り口で全力で後ずさった、みたいな。〆切直前、今できることはなにか、を考えて、盛り込めるディティールを絞った。もしもですが、時間がたとえば1年間あったら、ただただ、資料を探して、「この写真の列車はもしかしたら?」と突き止めようとして、「これ近いんじゃないか?」とアゲアゲになって、でも誰も褒めてくれない…。

なんてことになっていたかもしれない。

沼の魅力と、その怖さと、誠実さと

:自分自身、沼というか、“何十年も掛けて積み上げてきたディティールの面白さ”はわからなくはないんですよ、もちろん。「D型のハブキャップが何種類あった」みたいな。最近も、朝鮮戦争の米国のシャーマン戦車の塗装はこんなじゃったのか! と、マニアがひっくり返る写真が出てきました。何十年かけても、全て分かるなんてことはないんだなあ、と思います。だから、こういう趣味は面白いんですけど。

 全ては分からないし、描くことも出来ない。ならばどこで線を引くか、これが難しい。たとえば、土木の仕事(『図解絵本 工事現場』)をしたおかげで、「ここにこういうものは置かないよ」ということが分かるところまでですけど、分かる。専門分野ごとにそういうことがいっぱいあるわけですよね。

 誠実にやろうとすると、これ描いたら絵としては盛り上がるだろうな、と思っても描けないし、描かない。今回の表紙で言えば架線や駅名表示を入れたらより駅らしくなるけれど、そこは資料と時間、画面サイズの制約もあって諦めました。「ウソのない範囲」を「自分なりに」決めて、その中で頑張るしかないんですよね。こういうのはそれなりに面白いんですけど。

田中:本としてもそうですよね。赤塚さんの研究の生真面目な面白さを表現するには、「ファンタジーだから」ではいけないと考えて、モリナガさんにギリギリまでがんばっていただいたおかげで、あたたかさと精緻さが両立した絵にしていただけたと思います。

お聞きしていると、著者の赤塚さんも相当マニアックな方で、編集の田中さんも絵のモリナガさんも相当で、これは本当に、フィクションの側からノンフィクションにどれだけ迫れるかを試したような本になったわけですね。

田中:あ、そうかもしれませんね。

鉄道がお好きだった清張先生

そもそもの世界を作り出した作家、松本清張氏について、最後の担当者である田中さん、ひとこといかがでしょう。

田中:北九州市の松本清張記念館(こちら、2018年で20周年)初代館長の藤井康栄(ふじい・やすえ)さんが、文藝春秋で40年近く清張先生に伴走してきた大先輩なんです。

 先生が亡くなったとき、藤井さんと一緒に書斎や書庫に入って記録写真を撮り、書庫の本棚の位置をスケッチして、「どの本棚の何段目に何の本がある」というリストを作りました。それを基に、ご家族のご厚意で寄贈された書斎や書庫をそっくり再現した展示が、清張記念館の核になっているんです。

 私たちが運び込んだ資料が、紙袋に入ったまま無造作に置かれていたり、そのとき必要だった本が机のそばの本棚に集められていたり。記念館へ行くと、82歳で亡くなるまで週刊誌2つに小説を連載されていた先生のパワーが感じられて、自分もがんばろう、と思えます。お2人もぜひ、行ってみてください!

おお、熱い。

田中:ちなみにですが、先生のご自宅は、東京・杉並区の浜田山にありました。原稿をいただきに応接間に伺うと、井の頭線の電車の音が聞こえるんです。深夜、電車の音が聞こえてくると、まだ働いている人がいるから自分も頑張ろうと思う、とどこかにお書きになっていました。いま、赤塚さんの本で見直すと、やはり、井の頭線の登場頻度が高いのですよ。

12月22日に東京・神保町にて、『<a href="http://amzn.to/2AYaK9s" target="_blank">松本清張地図帖</a>』(帝国書院編集部)と、『清張鉄道 1万3500キロ』それぞれの著者、編集者によるトークショウが開催されます(<a href="https://www.shosen.co.jp/event/66081/" target="_blank">こちら</a>)。これは、濃そうです
12月22日に東京・神保町にて、『松本清張地図帖』(帝国書院編集部)と、『清張鉄道 1万3500キロ』それぞれの著者、編集者によるトークショウが開催されます(こちら)。これは、濃そうです
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