:いつも同じことを言ってますけれど、そのとおり描くだけなんですよ。たとえばこのタイタンパーの絵も、線路の犬釘の間隔も見たとおりにしてあります。絵のリズムでいくと、こんなふうにばらつかせたくはないのですが、でも、現物に忠実に描く。

 今回は、いただいたテーマは明快でしたので、ラフはささっと出来ました。あとは細部なんですが、これも、資料がたくさんあるだろうから、なんとかなるかと。

田中:問題のEF58は、鉄道博物館に行って写真を撮りましたし、外国人がカラーで撮った、当時の鉄道写真集を見つけて(『発掘カラー写真 昭和30年代鉄道原風景 国鉄編』)、「これだけ資料があれば大丈夫でしょう!」と大いばりでした。

窓が違う、ワイパーが違う、ハシゴが違う…

:ところが、まず鉄道博物館の写真は足回りが黒く潰れて分からない。

田中:す、すみません。

ありがちですね。

:カラー写真は足回りも含めて鮮明でとてもありがたかったのですけれど、いろいろ見比べると「おや? この車両はへんな部品があごに付いているぞ」と。

ああ、降雪時にラッセルを付ける部品ですよね。(※こちらにも修正をいただきました。コメント欄をどうぞ)

:窓の大きさもなんだかいろいろある。

大窓、小窓、Hゴムの有無とかでしたっけ。

田中:参考になればと、ネットで拾った写真もいろいろご紹介したら、「細かい違いがたくさんありますよ。どれを描けばいいですか?」と聞かれて、「すみません、わかりません…」。

:写真に見える盛り上がりは、線なのかひさし的なものなのか、フックがあるのか突起なのか、やはり画像では限界があるんです。

「ほら、窓にひさしが付いてますが、これも大小があるんですよ」
「ほら、窓にひさしが付いてますが、これも大小があるんですよ」
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 たとえ話ですけど、将棋を知らないまま絵を描いたら、「おい、『王』が両方にいるぞ」という次元の間違いをやってしまいそうじゃないですか、どうもそういう同じ匂いが漂ってきて…。

 他にも、あれ、前の窓にひさしがあるのとないのがある。ワイパーの装着位置も違う。アームも二重のと、一本のがある。写真ごとにみんな違うぞ! 横に付いている梯子も、外に付いているのと凹んでいるのがある、とか。もしやと思って屋根の上を見るとこれもいろいろ配置が違うし、パンタグラフも怪しい。

いや、すごいですよ。これまで興味が無かったのに、写真を見てほとんどの差異に気がついてるじゃないですか。私はたまたま聞きかじったから言葉を知っているだけで、知らなかったら絶対分からない。「そのまま描く」人には見えるんですね。

田中:私もぜんぜん、気がつきませんでした。

しかし、まあ、機関車もそうですが、戦車のバリエーションの細かさも相当のものじゃないですか。ドイツのIV号戦車ひとつとってもA、B、C、D、E、F、G、H、J型。

:IV号が作られたのは1936年~45年だからせいぜい8年で、それでおしまいじゃないですか。

ゴハチが作られたのも、このタイプ(注:同名だがデザインが全く異なる初期型が別にある)だけで(…検索中)、えーと昭和27年(1952年)から58年、6年くらいですよ。

:でもそのあと、2000年代までずーっと使い続けられたわけです。

ああ、そうか。約半世紀に渡って使われ、運用する機関区に合わせて細かい改造が施されたから、めちゃくちゃバリエーションが多くなった。

:そうなんですよ。そして、どのタイプがこの時期(『点と線』が描かれた昭和33年)に「あさかぜ」を引っ張って東京駅にいていいのか、分からないわけです。

完全にファンタジーに逃げる手は?

そのものズバリの写真は発見できなかったのでしょうか。

:非常に近いと思われるものはありましたが、ディティールまで描ける資料になるものは見つけられませんでした。もちろん、知識と時間が足りなかったからでしょうけれど。

細かい差異を詳細に紹介した、ゴハチのファンサイトもありますが。

:はい、すばらしい労作だと思います。その知識と蓄積への敬意は当然として、「見たままを描く」イラスト描きとして、自分自身の目で見るか、あるいは記録写真、映像を見つけたい、という気持ちがあるんです。無論、お仕事ですからそうも言っていられないことも多々ありますが、可能な限りオリジナルを見て描きたいんです。

なるほど。でしたらいっそ、今回は完全にファンタジーと割り切ってしまう手はなかったのでしょうかね。

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