ちなみに、田中さんご自身のご趣味は?

田中:自分自身はあまり……。ただ、仕事では『松本清張全集』(第三期、全66巻中の10巻)、『石原愼太郎の文学』(10巻)を担当したこともあり、年譜とか作品目録を作るのにのめり込むタイプかもしれません。校閲者に近い嗜好を持った編集者かな、と思っています。

分かる気がする。しかし、となるとモリナガさん、よく受けましたね。

:そうですよねえ。

「沼」だとはもちろん知ってましたが

戦車のイラストのお仕事を長年やっていたんですから、リアリティを持って鉄道の絵を描くのは、かなり“沼”に踏み込むことになる、と分かっていたのでは。

:まず、「バックアップとして写真による表紙デザインはできている。だから、万一完成しなくても、本が出せなくなることはない」と言われて、すこし気は楽でした。そして、「出版関係者として、とうとう松本清張の仕事が来たぞ」というワクワクもないとも言えず、まあ、お会いしてどこまで出来るのかを話しましょう、と、自宅近くの喫茶店でお会いしました。そうしたら、「私、最後の清張番だったんです」と言われて、ああ、どんどん退路がなくなっていく…そんな感じです。

 「じゃあ、電車を書いておきましょう。イメージは『点と線』で、東京駅ですよね。4編成くらいホームに並んでいるのは? ちょっとファンタジックに…」みたいな話になりまして。

モリナガさんの描いた表紙のラフ
モリナガさんの描いた表紙のラフ
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電車?

:ああ、列車というべきなんですよね。・・・もういきなり!夜行列車。客車か。その辺でYさんに電話したんでしたっけ。電話口で「EF58という機関車が…」と言ったら「ゴハチ? まず貨物用と旅客用があるし、他にもバリエーションがすごいですよ?」と即座に返されて、もう胸どきどき。正面の顔にある二つ目は、ライトかと思ったら「灯けちゃダメ。それは尾灯です」とか、そのレベルからですから。「あとこのヘッドマーク、これって照明が灯くの?」とか…(編注:さっそく詳しい方から修正を頂戴しました。コメント欄をご覧ください)

灯かないですよ。

:まあ、ラフを描いている段階で「どうもこれは、大変なことになりそうだぞ」とようやく気づくわけですよ。こちらもミリタリー系のマニアックな世界を知っていますから、おかしなところで手を抜いたら、本の価値を損ないかねない、ということは分かる。しかも、そのまんまの現物、昭和33年のホームにいる寝台特急「あさかぜ」を見て描くことはもうできない。

そうですよね…。

著者は乗り鉄、「車両はお任せします」

:でも、「鉄道関係は資料が沢山あるし」と楽観視していました。それに、なにより、著者の方が鉄道マニア…と言っていいですよね? ですから、ラフを見ていただければ、あそこが違う、ここはこう、と指摘してもらえるから、何とかなるだろうと。

そうか、なるほど。

:でもご相談したら「あ、私は乗り鉄ですからお任せします」と一蹴されて、びっくりしまして。

田中:赤塚さんとしては、「今から細かいことを言うのも大変だろうから、お任せします」と、口を出されなかったのかもしれませんが。

:私の先輩の鉄道マニアは、「車両の話題になったら『俺は乗り鉄』と言っておくと、争いに巻き込まれないんだよ」と言っておりました…。

あー(深く頷きつつ)。とはいえ、モリナガさんも鉄道絡みのお仕事はしてはいますよね。

:新幹線の絵本は、実際に行って、見たとおりを描くだけだからできたんです。ガシャ(『モリナガ・ヨウのデフォルメトレインミュージアム』)は、デフォルメですからね。そういえば、最近、鉄道関係でこんなのを描いたんですが…

あ、マルチプルタイタンパーだ。

:さらっと出ますね。

モリナガさんこそ、こんなすごい細かい絵をさらっと描くじゃないですか。

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