真木:うーん、参加するときに、あんまりそういうことは意識はしていなかったけれど、これまで、どういうことをやっていたのかは分かりますよね。普通のことを一生懸命やってこられた。でも、それだけではお客さんに届かない、ということは分かった。

 お客さんが見て、僕らが見て、「これはダメだ」だったら仕方ない。でも、「こんないいものを作ったのに人が入らないのは、プロモーションにやっていないことがあるんだろう」と、むしろそう思った。「まだまだやりようはある。なにをやらなければいけないのかは分からないけれど」というのが、参加を決めたときの正直な気持ちだと思います。その「なにか」の一つとして、今回は、クラウドファンディングがあったということじゃないでしょうか。

 もちろん、前作から世の中が変化していることもあるし、片渕監督がものすごく進化していることもある。でも、今回うまくいっている理由はそれだけじゃない。そして、彼の魅力を論理的に言葉で伝えるのは、僕じゃなくてファンの方、あるいは評論家の仕事だと思います。

Y:それは分かります。言葉にするのが本当に難しい。

言葉にしにくいから、必死で伝えたくなるのかもしれない

真木:でしょう? 僕も、意図的にどこかを切り出して言葉にして打ち出すことが結局できませんでした。片渕の映画は「見てナンボ」の部分が大きい。そして、人によって泣くところが違う。パターンで泣かせるんじゃないんですよね。言葉にできない「匂い」があるというか。そして、見終わったときの気持ちが後々まで残って、何かの拍子に思い出してぐっとくる、ある意味重たい映画。人生に影響を受けてしまいそうな映画だと思います。

Y:見ないと分からないから言葉にしたくなるのかもしれません。

真木:そう、見た人はそのなにかを、一行でもいいからと、誰かに必死に伝えようとするんでしょうね。プロデューサーだから複雑な気持ちも一杯あるので、一観客として見たらこの映画はどうだったんだろう。それが分からないのがちょっと残念ですね。

 この映画で最初に完成したのは中島本町のシーンなんです。主人公のすずさんがお使いに行ってキャラメル買って、という。なぜここか、というと、この場所は原爆で失われた街で、現在は平和記念公園になっているところなんです。片渕監督はこの場所を知っているお爺さんお婆さんにさんざんインタビューして話を聞いたんですね。で、再現した街を映画で見てほしいから、いの一番にここを、と監督は考えたんですよ。実際には、完成を待たずにお亡くなりになった方もいましたが…そして、そこがパイロット版にもなったわけです。

Y:なるほど…。ところで、もし、片渕監督以外だったら、「この世界の…」をプロデュースしましたか。

真木:えっ、うーん…他の監督だったら、別の「売れそうな」原作にしたら、と言ったでしょうね。ジェンコは、この作品だけやっているわけじゃないから、常識に従った判断を下すことももちろんある。でも、全部そうするのかというと、これはそうしなかった一本。

Y:結局、主幹事を引き受けたのは、ビジネス、勝算云々というより、真木さんのロマン、ということでしょうか。

真木:まずは片渕さんのロマンでしょう。そういうところはある。ありますね。片渕を男にしたい。興行収入も二桁行きたい。そうすれば次の作品につなげることができる。プロデューサーにもロマンがあるけれど、監督のロマンを実現することが仕事です。

Y:そういえばお聞きするのを忘れるところでした。興収の目標はいかがですか。

真木:現状(公開10日目)だと5とか6(億円)とかですが、3週目がまた前週を上回るようになれば(編注:取材後、上回りました)二桁も見えてきます。上映館も63館から82館に増えてきたし、東京以外にも拡大します。ただ、クチコミは数字につながるまでにやはり時間がかかるんです。

Y:あっ、もうひとつ最後に。のん(本名:能年玲奈)さんの起用は真木さんの仕掛けた「勝算」のひとつだったんでしょうか?

真木:いえ、キャスティングは片渕監督のアイデアです。話題作りかどうかは、映画を見れば一目瞭然でしょう? 片渕監督の力を持ってしても、彼女の声がなければ、この映画はこうはいかなかった。それだけが事実です。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会