真木:だけど、最近思うのは、感覚的な答えなんですけれど、常識や物差しだとか、トラックレコードだとか、何らかの方程式や枠によって、ほとんどのエンタメ作品が製造されているじゃないですか。日本に限らず、世界中、安全パイであることが最優先で。金融商品ですからね。より確実なリターンを期待されればそうなる。そうでないものは、「冒険」だと捉えられてしまう。

 全てが安全パイだとは言いません。でも、投資家の目を意識すれば、冒険がだんだん少なくなっていく。つまり、作品から作家性が乏しくなっていく。それを観客は心の底で感じていたんじゃないかな。送り手が観客無視になっている。これはメーカーも、出版もそうですよね。

Y:はい…。

真木:ということなんじゃないのかと、映画が支持されたと思えた今そう感じます。映画のプロの目利きより、3374人のほうが正しかった。

 片渕監督が何年も掛けてほとんど独力、いや、監督補と二人三脚で作ってきた映画が、クラウドファンディングで公開への資金の足がかりを得て、映画ができて、だけど宣伝費も公開規模も小さい。それでも、公開されるや劇場が満員で立ち見になる。見てくれた観客がSNSで「ねえねえ、いい映画があるよ」と広げてくれて、公開2週目でさらにお客さんが増えている。1週目より2週目の興行収入が伸びるって、あまりない例です。数えるほどですよ。それを支えたのは、デジタル、アナログ含めてのクチコミですよ。テレビでは、NHKで大きく取りあげていただきました。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 作家性の強い映画を作りたいクリエイターはいっぱいいる。でも、場がない。お金もかかるし、アニメ映画はひとりではできません。億単位の資金と数年の時間を、ビジネスサイドが支えないといけない産業です。その割にはクリエイティブ、作家性が大きいという実態があります。そこを削って「回収」を優先してきた。こういう、アニメの映画のヒットの常識がひとつも入っていない作品なのに支持されていることが、「こういう映画を作ってもいいんだね」という、業界内外へのメッセージになると、とてもいいと思います。

前作「マイマイ新子」から学んだこと

Y:クラウドファンディングの出資者の方に、なにか傾向は見えますか。

真木:当然ですが、原作のファン、片渕監督のファンが多いです。やっぱり男性が多かったし、これもトークショーで話したのですが、47都道府県全部に出資者がいました。東京が一番多く、次が神奈川県、その次が広島県です。映画館がない地域からも出資してくれた方がいました。

Y:ああ…。ところで、製作委員会ができてから完成までが1年3カ月ですね。ずいぶん短くないですか。

真木:それは、そこまでの3年をかけて、片渕監督が丹念な調査を経て、絵コンテなどを完成させていたからです。

Y:なるほど。

真木:丸山さんとの長い付き合いもあるんだけど、とにかく、制作できるかどうかわからない映画にそこまでやる監督に惚れた。もちろん、前の作品がすばらしかったこともあります。でも、すばらしいけれど赤字だった。(そうなると)みんなが(次の作品に対して)引くじゃないですか。「いい映画だけど当たらないよね」と。

Y:えっ、前の作品というと「マイマイ新子と千年の魔法」のことですよね。興行収入、そんなに振るわなかったのですか。

真木:もしかして「マイマイ」、見ていますか。

Y:公開されてすぐ、阿佐ヶ谷のミニシアター「ラピュタ阿佐ヶ谷」で。そういえばこれも、アニメ好きのライターさんに「絶対見ろ」と言われて行ったんでした。ぎゅうぎゅうの満員でしたが。

真木 興行収入は4000万~5000万円じゃないでしょうか。ラピュタ阿佐ヶ谷はすてきな劇場ですが、小さいですからね…。

Y:それでは、前作はビジネスとしては非常に厳しかったんですね。

真木 先ほどのクチコミは、どんな映画でも機能します。ただし爆発力は、メディアがバックアップしないと得にくいです。大手メディアがガンガン騒いで、スポット広告を打って、という事ですね。でもそれには莫大なコストがかかります。従来の「常識」を満たす映画しかやってもらえない。今回のヒットで分かるとおり、こういった(常識外れの)映画にもニーズはあるんですね。だけど、やってみないと最終的には分からない。

結局、勝算はあったのか?

Y:事前に判断はできない、と。うーん、これだけお聞きしても、実のところ真木さんに、この映画についてのビジネス上の成算、勝算があったのかどうか、まだ分からないんですが、実際のところどうだったんでしょう。

真木:勝算は…なかった!

Y:うわっ(笑)。

真木:というとヘンだけど、分からない。「やるだけのことをやれば、なにか道はあるだろう」という程度。

 オリンピックの選手でも、相撲でもよく言う台詞ですけど、自分を信じるだけ。「これだけ練習したんだから」と、あれと一緒じゃないですかね。ショービジネス、映像ビジネスには鉄板はないから。どうしたって「当たると分かっていた」といったらウソになりますよ。当たってから「俺は当たると思っていた」と言うのと同じ。

Y:揚げ足取りになりますけれど、これまでの片渕監督の作品のプロデュースに何か、「やっていないこと」があったんでしょうか。