真木:では、アニメーション映画を製作するに当たっては、どっちが大事なんだろうか。「応援団の方が大事だな。彼らが作ってくれるクチコミが大事だな」が結論でした。アニメ映画は数億円の費用がかかり、制作が始まってから映画ができるまでざっと2年以上かかりますから、集められる資金としてもかかる時間としても、大きすぎ、長すぎます。理想的には、公開するタイミングが見えたくらいで応援してもらうのがいいのですが、まず我々には目の前にお金がないといけない。でもプロデュースすることは決めた。「じゃあ、思い切ってここで応援開始してみよう」と。

 それと、これは片渕監督が別のインタビュー(こちら)で説明していましたが、シネコンは事実上、公開初日と翌日の動員でその映画をどれくらい上映するかを決めます。スタートダッシュがどうしても必要なので、まずパイロット版を作り、「この続きが見たい」という人を予め増やしておくことが、「この世界の…」をヒットさせるために必要だ、という考えがありました。

Y:なるほど、スタートダッシュが見事に決まった背景に応援団結成があったわけですね。

自腹で100万円用意していました

Y:「makuake」でのクラウドファンディングは2015年の3月~5月、3カ月弱でしたが、目標額の2000万円は最初の8日間であっさり集まった。

■このクラウドファンディングの主旨
劇場用アニメ映画『この世界の片隅に』の公開実現に向けて応援してくださる「制作支援メンバー」を募集しています。この映画は、準備作業に4年を費やし、シナリオ・絵コンテが完成したところまで辿り着きました。集まった資金は、作品をこの先のステップに進めていくためのスタッフの確保や、パイロットフィルムの制作に使わせてください。片渕須直監督が、こうの史代の愛した主人公すずさんに命を吹き込みます。
すずさんの生きた世界を一緒にスクリーンで体験しましょう。

makuakeのプロジェクトページより引用)

真木:そうです。こちらは、一般の方が投資するための「目論見書」ですから、ものすごく丁寧にやったつもりです。自分たちがこの映画の中身を信じていること、すばらしいものができると信じていることをなんとか伝えようと。目標は2160万円(税込)でしたが、結果は3912万1920円(同)。サポーターの方は当時の国内のクラウドファンディング市場の最高記録である3374人、金額は、国内のクラウドファンディング市場の映画ジャンルとしては現在に至るまでの最高額が集まりました。イベントで話しましたけれど、僕、集まりが悪かったら個人的に100万円突っ込もうと用意していたんですが、開始早々に数百万円を越えまして「あ、これなら大丈夫」と(こちら)。

 もちろん、この金額でも映画本編には足りません。でも、パイロット映像は作れます。それが資金調達につながれば、クラウドファンディングに出資してくれた皆さんに応えることができる。正確に言えば、投資ではないので「価値を買う」ことになり、金銭面でのリターンはありません。価値は何かといえば、この映画に支援するという満足感しかないんです。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 ですので、頂いた側が言うと大変いやらしいのですけど「俺はあの映画を応援した」と言える証明として、クレジットにお名前を入れますよ(注:税込み1万800円以上の支援者)、支援者に対しては60回以上のメールマガジンを出して「いま映画制作はこんな状況です」と報告し、共有している。これも言葉は悪いけれど“共犯”意識を持ってもらいたくて。

パイロットフィルムを待たずに資金調達できた

Y:そして、2015年の7月に5分間のパイロットフィルムが完成するわけですが、製作委員会はその前、6月に結成されていますよね。これは?

真木:クラウドファンディングの反響を見て、朝日新聞社が、出資に手を上げてくれました。その段階で出資に関してはあんまり心配しなくていいかなと思いました。ですので、製作正式決定という記者会見を広島で行いました。

Y:では、パイロットフィルムを製作するための手段のクラウドファンディングで、ある意味、資金調達ができてしまったんですね。しかし、3374人は大変な数ですが、映画のヒットを予感させるには少ないような印象もあります。出資側は、人数よりも金額を評価したのでしょうか。あるいは、この人数でも出資を促すには十分だったのでしょうか。

真木:人数が多いか少ないかは難しい判断です。しかし、ひとりひとりの熱量は凄かった。大応援団をバックにつけたという印象はありました。

Y:クラウドファンディングの成功はどこに理由があると思われますか。

真木:プロデューサーとしての感覚なんだけど、3374人が約4000万円ものお金を出してくださったというのは、本当に不思議なんです。もちろん、支援者は作家や作品に恋をして、一生懸命応援してくださるわけですが、失礼な物言いを許して頂きたいんですけど、だけど、こうのさんファンだけでも、片渕監督のファンだけでも、これだけの人数、金額には届かないと思うんです。当時は、原作も各巻それぞれ数万部で、片渕監督も一般には無名ですから。どう考えても何でこんなに跳ねたのかわからない。