真木:窓口を取ったら、どれくらい売れるか、売れるものが作れるかが最優先になる。コミックが売れるか、パッケージ(DVD、ブルーレイなど)が売れるか。これは関係者全員が分かっている話なので、悪口ではないと思います。しかし、投資である以上「どう回収するか」が説明できないといけません。「この映画の金融商品としての魅力は何か」が問われるわけです。

Y:なるほど。どうやって判断するんですか。

真木:アニメでも実写でもそうですけれど、例えば「原作、脚本を読んだら分かる」「監督を見れば分かる」、実写なら「キャスティングで分かる」と言われます。しかし、結局これは「当たった作品は、誰々の原作、そして監督、こういうキャスティングだった」という、トラックレコードが必要なんです。過去の実績が常識というか、投資するかしないかの「物差し」になっていて、そのガイドラインから外れたものはジャッジできないわけですよ。

Y:その点「この世界の…」は。

真木:原作にも監督にも確固たるトラックレコードがない。つまり物差しから外れています。

いい作品になるのは間違いない。当たるかどうかは分からない

 例えば、片渕監督の映画を知っている人、こうのさんの原作を読んで好きな人。これはいるわけです。この人達に聞けば「ああ、それはいい、すばらしい映画になりますよ」と言うでしょう。「じゃ、当たりますか」と聞かれたら、「分からない」が答えです。

 金融商品としては「やってみないとわからない」。運用益が出るかどうかの、つまり、ジャッジする素材、材料が乏しかったわけです。「この世界の…」は。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 アニメが得意なジャンルは、ファンタジー、奇跡、異世界とのコミュニケーション、メカニック、友情・努力・勝利で最後は何かをつかみ取る。そういうのがこれまでの物差しであり、常識だった。そうでないものは苦戦する。極めて厳しい戦いになる。この業界の人間なら、最初から分かっていることです。丸山さんも片渕監督も、もちろん僕も分かっていた。

Y:なるほど。題材は戦時下の日常のドキュメンタリーで、しかも、何かをつかみ取るという映画ではないですね。じゃ、真木さんは「この世界の…」の製作委員会の主幹事を、ジェンコが引き受けよう、という決定をした段階で、どう考えていたんでしょう。

真木:資金をいくら出すのか、最低どのくらいの資金が集まったら実際に委員会を立ち上げるのか、うまく行かなかった場合は主幹事としてどう責任を取るのか。「ここくらいまでは我慢する。これ以上は出せない」という数字を想定して、「足りない資金を集めていきましょう」と、そんな感じですね。つまり幹事会社の役割って、そういうものだと思います。

 意外に製作委員会ではこういうのは少ないんですよ。投資予定額が全額集まったら、初めて(実際にアニメを作る)制作会社にお金を出すやり方が多いんです。この映画の場合は「いつ必要なお金が全部集まるのかはまるで分からない」状態でした。だって、投資するのは企業ですから、各社とも稟議がありますからね。稟議をあげるには、映画の目論見書が必要です。ジェンコは主幹事として、プロデューサーとして、出資者を探し、説得する、という立ち位置です。でも、すぐに出資が集まる目論見書なんて、そんな簡単にはできない。

Y:ジェンコとして、そこにどんな勝ち目があると見ていたんですか。

真木:難しい企画なのは間違いない。じゃ、やめるか。アニメだろうが映画だろうが、自動車だろうがエレクトロニクスだろうが何だろうが、そこでやめる人もやめない人も、どの業界にも産業にもいるでしょう。

Y:でも、それはある程度でも成算があってこそでしょう。

「目論見書」としてのパイロットフィルム

真木:言い換えると、既存の業界のガイドライン、物差しを打ち破るにはどうすればいいかということですよね。金融商品なら、「あなたのお金をどう運用するか」を語る目論見書は、フルカラーで、上質紙で、その気にさせる体裁がなくてはいけませんよね。きちっとしていないと、いかに論理的に正しくても、パチものに見える。僕らも同じです。「この世界の…」の“目論見書”は、体裁、中身がものすごくきちっとできていないと、集まる人も集まらない。お金も集まらない。そこで「パイロットフィルムを作ることが必要だ」と判断したんです。

Y:パイロットフィルム。

真木:それを見れば「これはすごい、人が入る映画になるだろう」と分かるものが必要だ、それは現物に勝るものはない、と。ただし、それを作るにもお金がかかるわけです。資金調達に必要なパイロットフィルムも、資金調達がないと作れない。

Y:おやおや。

真木:もうひとつの大きな要素が、クラウドファンディングです。クラウドファンディングについては、1年半くらい前に、身近でやっていた人に話を聞いたり研究会に出たりして勉強していたんです。で、これは「資金調達と資金を出す応援団との両面があるんだな」と理解しました。