安彦:ううん、何と言うんでしょうね。どんな会社でも、自分のやりたいことをやれる可能性はある、というのが事実だと思うんです。けれども、当然のことながら、ただ待っていてもその可能性は訪れなくて、自分で努力しなくちゃいけない部分はあって…という、当たり前の話しかできないと思いますよ。

ソニーだから、という部分はありますか?

安彦:ソニーという会社は、比較的やりたいことがやれる会社なんじゃないか、と思っている方はも多いかもしれません。けれど、僕らが「舞台めぐり」の開発を始めてから丸2年間以上は、会社からは一切認めてもらえずに、アングラの放課後活動という形で、就業時間が終わってから集まって、ミーティングして、開発して、交渉しに行って、みたいなことをやり続けていたんです。

アングラ活動を続ける熱意はどうやって?

うわー、いかにも“らしい”お話ではないですか。でも考えてみると、そういうアングラ活動は、立ち上げるのも、そして継続するのも難しそうですよね。報われない、認められない時間が長く続く中で、どうやって「自分で努力する」ことを続けられたのでしょうか。

安彦:それ、基本は、やっぱり「気合いと根性」になっちゃうと思うんです。

それはそうですね。気持ちがないまま続けられるわけがない。

安彦:「狙った獲物は逃がすな」「先に主張したもののインパクトは強い」「やると決めたらどこまでも」と。

ごもっともです。

安彦:気合いと根性は必須。じゃあ、それが全てかというと、やはり「会社でやりたいことをやる」ためにはいくつかの方法論はある、と思っています。

聞かせて下さい!

安彦:やりたい仕事がある。それを上司に話したらOKしてくれた、なら話は終わりなんですけど、実際には時間も資金も権限も足りないことがほとんどでしょう。そんなとき「あなたはどうしますか?」という。

どうしましょうか。選択肢は?

安彦:1:単独で特攻する、2:あきらめる、3:誰かに振る、4:仲間をつくる。

あー、なるほど…。自分“だけ”で考えちゃいけないんですね。これはどういうご経験から出てきたんですか。

ブルーレイドライブ開発時に「仲間が必要だ」

安彦:2004年頃、現在使われている、ブルーレイのディスク(「Blu-ray Disc Version2.0」。先行した1.0はカートリッジ入りのもので、2.0でむき出しのベアディスクになった。以下、「ブルーレイ(ディスク)」はVer2.0のものを指します )の開発が進んでいた時です。

 僕はVAIO(当時のソニーのWindowsパソコン)の内蔵ブルーレイドライブを担当していたんです。そこで、我々ハードウエアの開発者と、ソフトウエアを開発する人たちと、さらに、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のプレステの人も巻き込んで、ブルーレイに関わる人がみんな集まる場所を用意しよう、と動きまして。

え? なぜ安彦さんが。

安彦:あまり詳しくは言えませんが、開発を進めるために必要な情報がどうにも共有されていない。決まっているのは〆切だけ。ならばこの際、現場からひとつにまとまって、それぞれの考えや課題を共有したほうがいいよね。そんな気持ちからです。

自分だけではどうにもならないから「仲間をつくろう」と。

安彦:「あなたたちどんな状況ですか。ちょっと僕らと一緒にやりませんか」みたいな感じであちこちに声をかけて、第1回ミーティングを開催したら、お互い、分からないことだらけ。

あらら。

安彦:我々の部署は、世界初の内蔵ブルーレイ(Ver2.0)対応ドライブを積んだVAIOを出そうとしていたわけですが、「これはもう、お互いに頼り合わないととても間に合わない」と。じゃあ、自分から率先して情報共有をしましょうということで、「社内横断グループ」を立ち上げて、内部向けのウェブサイトを作り、そこで毎日毎日ブログも書いて「こうしたいよね、こうなるといいよね」と訴えたわけです。

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