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 熱中している人の話は面白い。別に、趣味でも、仕事でもかまわない。ただし相手が話してくれるかどうかは分からない。人の話を聞くのが仕事(の大部分)なので、勝手に面白い話をして下さる方がいると、本当に楽で助かる。相づちを打っているだけで仕事が片付いてしまう。だから、何かに熱中している人を見付けるとアポを入れる。そんなスタイルでこの欄のお仕事をしてきた。

 なので、「やっていること」を基点として人物にたどりつくことが多い。
 その点で、今回の方はちょっと異色かもしれない。

 どなたかというと、押しも押されもしない、一部上場企業の社長である。(念のためにお断りすると、普通の「日経ビジネス」の記事ならば当たり前だが、本連載では異色、という意味です)。

 どちらの社長さんかといえば、大阪に本社を持つ、不二製油グループ本社。年間売上高3076億円(2018年3月期、以下同)、営業利益204億円(売上高営業利益率:6.7%)、経常利益199億円。油脂、お菓子やパン、チョコレートなどの原料、そして大豆を原料とした食品素材のメーカーだ。

出所:不二製油グループ本社ウェブサイト(こちら

 顧客は食品メーカーやコンビニエンスストア。たとえば、ある菓子メーカーが「口どけが良くて手に付かないチョコレート」を欲しがっていれば、開発し、納入する。つまり典型的なBtoB企業で、おそらくあなたも、知らない間にここの製品を使った飲み物、食べ物に接している。最近では、「ナチュラルとうふ」(「“量産型”の逆襲」)でお馴染みの相模屋食料と業務提携し、同社のユニークなとうふ製品の原料を提供している。

 2016年、自分は紙の方の「日経ビジネス」の「企業研究」でこの不二製油グループ本社を取り上げ、清水洋史社長にもインタビューを行った。

 インタビューさせていただく側がこういうことを言うのも何だが、コンプライアンス重視の昨今、いまの大企業の社長、役員の方は自分の話したいことを話すのがなかなか難しい印象を受ける。まして3000億円企業となれば、普通は当たり障りのないことしか言えないものだ。

 ところが、清水社長は業界でも有名な有言実行、かつ、おしゃべりな方だった。
 しかも基本的に言ったことは何を書いてもかまわない、と仰る。

 おかげで、「大きな企業をどう動かすか、何を考えて動かすのか」ということについて、素人目線で根掘り葉掘り聞く絶好の機会となった。清水社長にはその後も何度か機会をいただき、時にはうなり、時には笑い転げながらいろいろなお話を聞いた。

 経営者の方に、その時、その時の事業のお話を聞く機会はもちろん多々あるのだが、「経営」というレベルで真っ正面からぶっちゃけたお話を聞くことはなかなかないし、実は企業経営なんてそれほど興味もなかった(ああ、入社試験以来のウソをばらしてしまった)のだ。しかし、面白いかどうかは話し手次第であることが今回よく分かった。

 独り占めするにはあまりにもったいない。そこで今回、これまでのインタビューを再構成してお伝えする。いわば「社長の雑談」録だ。日経ビジネスオンラインをお読みで、実は企業経営に興味がなかった方にも、読んでいただけたらとっても嬉しい。

※なお、たいへんお手数で心苦しいのですが、事前に以下の「日経ビジネス」の記事をご覧いただくと、さらに清水社長のお話を理解しやすくなるかと存じます。

企業研究 食品メーカーを技術で支える『コンビニの黒子』

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清水 洋史(しみず・ひろし)不二製油グループ本社社長
1977年同志社大学卒業、不二製油入社、油脂販売部に配属。89年蛋白事業本部企画室、91年大豆多糖類事業化推進プロジェクト、その後新素材事業部長兼販売部長、食品機能剤事業部長を経て2004年、取締役就任。13年に代表取締役社長就任、2015年より現職。(写真=今 紀之)

清水さんは、2013年に社長に就任して、BtoBで伸びてきたこの会社の企業文化を変えようとされているわけですけれど、「このままではあかん」と、いつ、どういう経験から思ったのか、具体的なエピソードを聞かせていただけますか。

清水:うん、話をする前に言うとね、よく「世の中は大きく変わっている」と言われるじゃないですか。「だけど、何を基準にして変わっていると言うんだ」と。

基準……。

清水:マーケティングで「STP」という分類があるんですけれど、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングですね。そのどれに照らして何がどう変わることを指して「世の中は変わる」と言うのか。

変えるって、「前と違うことをする」じゃないんですか。不二製油の創業時からの社是は「不断の改革を断行せよ」でしたよね?

清水:絶対的か相対的かの違いがあるじゃないですか。例えば、自分のポジショニングがしっかり分からない人間ってたくさんいるんですよ。そういう人は、「変わっている変わっている」というだけで、相対的な話をするだけで、ひとつも「何が」変わっているのかが分からへんですね。これが分からへんと路頭に迷うわけです。本人だけやったらまあいいけど、会社はようけ人がおるから大変ですね。