―― 「偉くなってやれること」と、「今の自分がやりたいこと」とは違いそうじゃないですか。自分は偉くなったことがないんで分かりませんが、どうですか。
三木:正確には、「偉くなったときに、やれることの規模が大きくなる」ということだと思います。たとえばたくさんのお金を使う、人員をある程度思い通りにできる、その二つをつかってどんなプロジェクトを展開するか……そこに、現場とはまた違った監督職としての楽しみもあるんじゃないか、と。
―― 三木さんの場合、社内ベンチャーみたいなものでは、ダメだったんでしょうかね。
三木:難しいところですね。一般的に社内ベンチャーって、一見自由なんでも好き勝手やってみろ!というような印象がありますが、結局は事業報告を定期的にしなきゃいけませんからね。その報告先の上司の対応次第で自由度は変わりますし、本当の意味で「好きなこと」というのはなかなか難しい。もちろん、お金と権限を与えてくれているので、義務は存在するわけですが、エンタメ業界ではそういうしがらみを気にしないでやったほうがインパクトあるものができることがありますから。
―― 三木さんは、編集長時代の自由度はどうだったんでしょう。
管理職は、とことん向いていませんでした
三木:僕は、編集長として、会社員としてはものすごい自由度を与えてもらっていたと思います。それなのに、独立させてもらっているわけなので、今後は、さらに、もっと、今までよりも新しいことをやらないといけないと感じています。
―― 相当自由度の高いポジションにおられた、と。そうなると、独立して何が一番変わったんですか? 具体的に教えていただけますか。
三木:僕は、管理職がとことん向いていないんです。プレイヤー(現場編集者)としての評価は、個人的にはS(スペシャル)をつけてもいいと思っていますが、マネージャー(管理職)としての自己評価はDですね。組織の中では、管理する仕事に向いている人は必ずいます。そういう方と比べて僕は圧倒的にできていなかったし、だったら、管理に長けた方がそのポジションにいたほうが、企業としても絶対良いんです。替えが利くのが企業の利点ですから、僕が向いてないと感じて辞退しても、代わりに優秀な人間がそこに収まってくれるんですよね。
―― なるほど。
三木:プロ野球の監督は、ペナントレース中に球団の成績が悪いと、クビになったりするじゃないですか。プロスポーツ界ではそれが普通ですよね。でも企業は、正社員をなかなか辞めさせられませんから、ここは自分からクビにならねば、と。
―― 自分からクビですか…。そこまで言うなら、もうちょっと「管理」について、具体的に何が向いてなかったかを教えてもらえますか?
三木:今思うと、立場が変わったら、今まで持っていた仕事をそぎ落としていく作業が絶対必要なんですよね。いかに努力しても時間は有限ですし。でも僕にはそれができなかったんです。管理職に就けるような有能な方は、そこでライフスタイルを変えるんですよ。
これはたとえ話ですが、30代になれば自分の人生の主役が、「自分個人」から「家族」に変わっていく傾向にありますよね。つまり「自分だけの頑張り」から「家族をどう支えるか」というふうに考えを変えていくんです。そういう家族的な考え方が、部の経営に向いているんじゃないでしょうか。
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