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タブチ:泰さんに直接お会いして、「ネームのみだったら週刊連載ができると思うので、作画家を立てるつもりです」とご相談したんですよね。そうしたら、泰さんのほうから、「ほかの人が絵を描くとたぶん描けなくなっちゃう気がする、自分の絵だから、次はどんな話に、というのが出てくると思います」と。

なるほど。

「なんてことをするんですか!」

タブチ:「だから週刊でも、描けます」と言い切られまして。言い切られたら信じるしかない。じゃあ、ゆっくり描き溜めていただいて、とか暢気に考えていたら、「今月いっぱいで警察は辞めます」という衝撃の宣言を受けてしまって(笑)。

それはその話をしているときに?

:いえ、もうちょっと後で。その場で言ったらタブチさんから止められるんじゃないかなと思って、メールで事後報告をしました……。

タブチ:あ、確かそうでしたね。

:そうしたら、メールした直後にタブチさんからぱっと電話がかかってきて。

タブチ:何ていうことをするんですか、責任を取れませんよと(笑)。

あはは。

タブチ:それは止めますよね、そんな。

止めますね。

タカハシ:結構真っ青ですよね、いや、どうしようと。

タブチ:もう届けを出しましたと言われて、「今から撤回できないですか」と。

:「無理です。できないできない」と(笑)。

タブチ:それでもうこちらも覚悟を決めまして、デジタルツールをお持ちしたり。

:持って来てくださっていましたね。

デジタル化は新人の大きな武器になっている

タブチ:そうですよね。今から覚えるんだったら、もう新しいものに慣れてもらった方がいいですというので、「CLIP STUDIO」を。あれがあれば、地方にいらしてもアシスタントさんと共同作業ができるので。

あっ。そうか。

タブチ:マンガ家さん、特にアシスタントから一本立ちされた方って、背景もご自分で描きたいと、アシスタントに任せるのを嫌がることが多いんですけど、泰さんは「お任せできるほうが助かります」と言ってくださって。

:すごく楽です。すごく助かっています。

タブチ:デジタルツールは本当にマンガの制作体制を変えました。絵の上手い下手のギャップがこれでかなり縮まります。個性が薄れるという副作用もありますが、泰さんのように、なかなか表に出てこない仕事の経験がある人が、マンガ家としてやっていっていただくにはとても効果がある。それと、分業がネット越しでできるので、アシスタントをお願いする際に、時間や場所の制約がなくなる。新人にはこれはすごく大きなメリットです。

時間はともかく、場所の制約って?

タブチ:ほら、紙とペンの場合は、アシスタントさんの作業スペースをマンガ家さんが用意しなきゃならなかったでしょう。

あ、そうか! 部屋代に光熱費もろもろがかからない。

タブチ:だから、ネットとデジタルツールの登場で、新人作家でもアシスタントさんにお願いできるようになったわけです。最近はデジタル専門のアシスタントさんがほとんどなので、むしろベテラン作家さんが、デジタル対応を迫られているんですよ。

(c)泰三子・講談社

なるほど……。ただ、ここでしつこく最初の質問(前回参照)に戻るんですけれど、最初にお話しくださったとおり、警察官って、精神的にきついし、体を壊すリスクもある。一方で、絶対に倒産しない会社ですよね。

:そうですね。

そこから「ウケなきゃおしまい」みたいなところに踏み出していくということについては、恐怖とかはなかったんでしょうか。

:あ、そこまでの考えはなかったですね。ただ、自分のやりたいことをやる打席に立てるチャンスがあったというので、何も考えずに辞めちゃいました。

マンガで世の中に出たいと。

:ですね。自分にできる限りの努力で、目に留まった人にちょっと気に入ってもらえたらなと。ただ、モーニングで連載してから、初めて、これはすごい雑誌なんだというのを知って。先に申し上げましたが、ほかのマンガ雑誌がどれぐらいあるかも知らず、ホームページで公開するとかそういう手段もまったく思い付かずに始めてしまったので。

あ、そうなんですか。

:実はちょっと逃げ出したいような(笑)。こんな大事になるなんて……というのが今の気持ちですかね。

ああ。じゃあ、自分でブログとか「Twitter」とかそれこそ「Pixiv」とかで、「警察の中の人」みたいなふうにやる手も考えなかったんですか。