警察は「しょうもない人々が頑張っている」ことを世の中に伝えたい、と考え、10年間勤めた警察を辞めてマンガ家に転身しようとした泰三子(やす・みこ)さん。しかし、その時点でマンガを描いた経験はなかった。警官としてのお仕事から、人気週刊マンガ雑誌「モーニング」で週刊連載を勝ち取るまでに、いったい何があったのか?

(前編から読む

泰 三子さんは「似顔絵捜査官」……って初めて聞きましたけれど、似顔絵捜査官としての経験で、容疑者の「悪いおじさんの顔」を描くのは慣れていた。ネット検索で「可愛い 女の子」の絵の雰囲気もなんとかつかんだ。でも、マンガ家としての経験はゼロだった、と。

講談社担当編集者タブチさん(以下タブチ):泰さんがモーニングに投稿されたのが2016年の秋、そこからご連絡させていただいて、1ページものを何度か掲載させていただきながら、参考書籍をお送りしたり、いろいろと。

:アドバイスをいただいて。

編集の方のアドバイスで、何か「へえ」と思ったこととか、意外だったこととか、あるいは「ひどすぎる」でもいいんですけど、何か記憶に残っているものってあります?

それは名言なのか

:いや、もういただいた名言でランキングは作れるぐらいあるんですけど。

おっ。

:いろいろ言われましたもんね。

タブチ:ありましたっけ(笑)。

:ありました。ちょっと甲乙は付けがたいですけど。

どんな言葉が成長につながったのか、ぜひ聞かせてください。

ハコヅメ~交番女子の逆襲 第1巻

泰 三子(やす・みこ) 某県警に10年勤務。2017年、担当編集者の制止も聞かず、公務員の安定を捨て専業マンガ家に転身する。短編『交番女子』が掲載され話題になっていた「モーニング」誌上で、2017年11月より『ハコヅメ ~交番女子の逆襲~』の週刊連載がスタート!

(第1話はここから読めます)

:これは電話でだったんですけど、「うん、やっぱり泰さんは絵で見せるタイプの作家さんではないので、ネーム(台詞、言葉)を多くして、文字をギチギチに詰め込んで、絵を描くスペースを小さくしましょう」と。これは衝撃でした。ああ、現実は参考書とは違うというのが腑に落ちましたね(笑)。

それって名言?

:心に残った一言です。

タブチ:泰さんはネームが切れている(台詞のやりとりがよくできている)ということですね。

もうひとりの担当編集者タカハシさん(以下タカハシ):そうですね。

泰さんは笑いながら内心はむかついている。

:いや、むかつくよりはやっぱり衝撃でしたね、あれって。やっぱりプロの編集の方だから、基本通りのことは言わないんだな、という尊敬の気持ちが芽生えました。絵が下手な人ならば、絵を描くスペースを少なくすればいい、という、その臨機応変さがないといけないんだなと。

なるほどと感心していいのだろうか。いや、でも確かに名言かもしれない。

:名言ですよ。

そんな発想普通ないですよね。

:ないですよね。

上手くないなら上達してくださいと、練習してくださいと言うのが編集者では。

タカハシ:うん、そうですよね。すくなくとも僕はその言い方は思い付かない。

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