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私、最近のマンガ制作事情にとても疎いんですが……お話によれば、泰さんはこれまでマンガを描いたことがないわけですよね。なのに、1週間でマンガ編集者が評価する作品が描ける、って、天才か? って感じがするんですけど。

タブチ:いや、送られてきた作品は、現状よりまだまだ荒削りな段階です。

少し安心しました。紙とペンで描かれたんですか。それともタブレットで描かれたんですか。

:ペンで描いたのをスキャナーで取り込んで、トーンの色付けだけした感じですかね。

パソコンでやったと。

:はい。何も分からないので、参考書……というか、スマホで、マンガの描き方を解説したページを見ながらトーンだけは塗って、えいっと送った。

何か今の、すごいリアルでしたね。こうやってスマホを片手に持って、と。しかし、しかしですよ、例えば、いきなり人間の顔とか描けるものなんですか。

:私、似顔絵捜査官をしていたので……。

似顔絵? あ、容疑者の? それで人間の顔を描き慣れていたんですか?

:はい、そうです。ですので、悪いおじさんの正面の顔はめちゃくちゃ描いているんです(笑)。かわいい女の子を描くというのが、ちょっと苦手だな、と思いながら描いたんです。

そんな絵の上達法があったとは。じゃあ、かわいい女の子はどうやって描いたんですか。

似顔絵捜査官、ピクシブで今時のカワイイを学ぶ

:「かわいい女の子 画像」を「Google」や「pixiv」とかで検索しまして、何となく「あー、マンガのかわいい女の子はこういう感じなんだ」という雰囲気をつかんでから描きました。

うわー、年季が入った似顔絵と、今時の流行り絵がこうして合体したのか。細かいところに突っ込んでばかりで申し訳ないんですけれど、似顔絵捜査官というのは、どんな仕事ですか。

:刑事ドラマとかであると思うんですけど、目撃者とか被害者から犯人の特徴を聞いて、似顔絵を描いていくという。あと、変わったところで言うと、防犯カメラの画像で、ちょっと不鮮明な防犯カメラの画像なんかは、それを似顔絵捜査官が描いて分かりやすくして、捜査に流すとかですね。

描き方の教育とかを受けるんですか。

:事実上、ないです。新任の警察官が、「今から似顔絵を取らないといけないから、ちょっと描いて」と呼ばれて、その中で筋がよかった子が、そのまま残っていく。筋が悪ければ、次は呼ばれない。

筋がよかったんですね。

:よかったみたいです。学生時代のクラスでたぶん2~3番目には絵がうまかったので。1番じゃないですけど(笑)。

こいつは描ける、と思われたら、専門でやるんですか。

:いえ、普通の自分の業務と並行して、事件のときに呼ばれるという感じです。

さきほどお話に出ましたが、必ず正面顔なんですか。

:本当はそうです。でも私は「それだとちょっと弱いんじゃないかな」と思って、見たまま聞いたままの角度で描くようにしていました。

意外なトレーニングですね。こう言っては何ですが、登場する女性の体の線も妙に色っぽいと思ったりしているんですけれど。

:あれは、ただの私の趣味です。体のラインはですね、実は職場のおじさんたちが「やっぱり女の年齢は後ろ姿に出るよな」とか言うわけですよ。そこで、「あ、女の子を描くとき、後ろ姿で年齢が分かるようにしないといけないな」と思いましたね。そのときはムカッとして、うるさいと思っていたんですけど。やっぱり役に立つこともあるんだなと(笑)。

(c)泰三子・講談社

前向きだ。

タブチ:そうですね。ただ、Yさん、似顔絵を描くのとマンガの絵のうまさって、まったく別の技術なんですよ。そういうユニークな経験はあったとはいえ、泰さんは、マンガ家としてはゼロベースから始められたというのが事実だと思います。

でも、応募された時期から連載までそんなに時間なかったはずですよね。いったいなにがあったんですか?

(後編に続く。明日公開予定です)