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:はい、そういうマンガで職場紹介をしていらっしゃる県警もありましたし、やること自体は実は難しくはないのかもしれないんです。だけど、私が描きたかったのは、警察官のしょうもない部分というか。何ていうんですかね、高校生が言っていた、「自分のこともできないのに、俺なんかが」というのじゃなくて、本当にしょうもない人たちが、どたばた仕事に振り回されながら一生懸命、流れに身を任せてやっている感を伝えたかったので。

「そこはどうしても譲れない」という真摯なお気持ちが、言葉の端々から伝わってきます。

タブチ:でも、なかなかお役所だと予算が通りにくそうですよね。

:仮に私のマンガを見せたとしたら「このしょうもない警察官をもっと立派に描け」と言われるのが目に見えているので、それはちょっとな、と。

なるほど。それを言ったら、実は世の中で働いているのは、我々を含めてしょうもない人のほうが圧倒的に多いですからね。

:でも、結構警察は誤解されていて、「普通に働ける職場」だと思ってもらえない、それで嫌がられたり敬遠されたりだとか、そういうデメリットもあると思うんです。

タイミング的に申し訳ないのですが、お聞きしてしまいます。警官関連の不祥事が相次いでしまいましたが……。

:そうですね。実際にどういうことが起こっていたのかは分かりませんし、それぞれの職場の事情も分からずにお答えするのは難しいです。すみません。私が「しょうもない」というのは、仕事を不真面目にやっている、という意味じゃないんですよ。働いている人たちは、普通の、どこにでも居る人たちで、それが必死でストレスが多い職場で頑張ったり、その反動でぐったりしたりしているんだ、ということをお伝えしたくて「いや、しょうもないんです」と言っているつもりなんです。

ちょっと『福島第一原子力発電所労働記 いちえふ』(竜田一人作)のお話とも通じますね。原発事故収束現場で働いているのは奴隷でも英雄でもない、ただのおっちゃんたちが日常の仕事としてやっているんだ、と。

タブチ:そうですね。

:すごく分かります。

「これはアナウメにちょうどいいぞ!」

泰さんのお考えには個人的にとても共感しますけれど、確かに警察でそれをやりたいと言っても難しいでしょうね。それでモーニングに持ち込まれたと。で、具体的にどうされたんですか。

:最初、いきなりストーリーマンガを描こうしたんですけど、描いているうちに「編集の人に早く見てほしい」と思って、それはもうほっぽりだして、1つの話が1ページで終わるスタイルに変えて、16ページ描いて送り付けたんです。

(c)泰三子・講談社

展開が早いですね。じゃあ、警察官としてマンガを描いて「しょうもない」実態を伝えるのは無理だと分かったら、自分がマンガ家になろうと思っちゃった、ということですか。

:いえ、マンガ家になろうとは全然思っていなくて、ただ、モーニングにマンガを載せてもらえないかなと思って、そのために編集さんと話をとにかくしたくて。それで「まず見てください」と思って出したんですよね。

それでタブチさんが担当したいということで、連絡を取った。

タブチ:編集長もわりと良い評価で。理由は、1ページマンガだから、他のマンガの連載がオチたときに……(笑)。

ページ数が何ページでも、片起こしでも見開きでも載せられる。なんてまあ、身もふたもないことを。

:引っ掛かったという感じですね、本当に。こちらも、下書きとかネーム(※)とかいう言葉も知らなかったので、1週間でわーっと。ともかく編集の方としゃべりたい、接点が欲しいという気持ちで出しましたから、背景もほとんど描いていなかったかも。直接、下描きも何もなしにばっと描き殴ったという感じで。

※ネーム:この場合はマンガのコマに台詞だけを入れたもの。お話の構成図となる。キャラクターの下絵まで入れたものを指す場合もある。絵コンテ、ラフ、とも言う。