泰:はい。異動もちょくちょくありますし。団塊の世代の先輩方がまとまって抜けられたので、確かに立場的には中堅だったんですけど、本当に仕事がいろいろあり過ぎるので。交通から刑事から、風俗事犯の取り締まり、普通の総務や経理、もちろん遺失物拾得も。もういろいろあるので、慣れてきて「回していた」という感じはまったくないですね。何とかかんとか毎日、自分の責任を果たすことに集中して、やっていた感じです。
タブチ:交番勤務もそのひとつですが、いろいろな部署の経験をしたことが今のネタになっているから、ラッキーでしたね(笑)。
そうなんですか。なんとなく、それぞれの部署がびしっと縦割りで動いているのかと思っていました。
泰:大都市だとまた事情が違うのかもしれませんけれど、田舎でちっちゃな所属をいっぱい回っているので、線引きがあいまいで、結構応援に駆り出されたりすることもあって、いろいろな分野に触れさせてもらいました。
なるほど。では、なぜ10年もお勤めになった警察を辞められて、モーニングでデビューしたのかを聞かせていただけますか。
泰:そうですね。ちょっと面倒かもしれないんですけど、何段階かありまして。
ゆっくりどうぞ。たっぷり伺いますので。
泰:すみません。まず警察官ってすごく忙しくて、いい人から死んでいくという感じで……。
は?
泰:職場で自分を育ててくれた方、熱心に面倒を見て下さった方が、主に過労で現職中に亡くなっていくんです。
「自分には無理な仕事」と誤解されている
たとえ話じゃないんですね。
泰:私が産休を取っている間に、とてもよくしてくださった先輩が病気で亡くなられたりして、自分が休まなかったらもしかしたら……と、どうしても考えたりしてしまうんです。負担をおかけしたからじゃないか、と。もう、本当におこがましいんですけれど。
いえいえ。切ないですね。
泰:自分の子どもを見るたびにそういう気持ちになってしまって。復職して、どうやったら警察の過労死がなくなっていくのかなと思ったときに、「すごくたくさんのいい人が『警察官になりたい』と応募してくれたら、負担が減っていくんじゃないかな、それに役立つことができたらいいな」と思って。

警察官、就職人気は落ちているんですか。
泰:実体験なんですけれど、高校の就職説明に行って「この中で警察官になりたい人!」と言ったら、誰もいなくて。
あらら。
泰:でも、目の前に座っていた男の子が1人、ちょっとだけ手を挙げてくれたので「なりたいと思ってくれているの」と聞いたら、その男の子が、「実は小さいころから警察官になろうと思っていたんだけど、親に止められた」と。「お前みたいないいかげんな人間に、警察の大変な仕事はできない、と言われたので、別の分野を目指そうと思っています」って。運動もやっている、すごく精悍な感じの男の子で、非常に残念だったんです。
それで、どうやったら、こういう男の子に振り向いてもらえるかなと思ったときに……。
思ったときに。
泰:「警察って、君が思っているより、もっとしょうもない人たちが、それなりに楽しく仕事をやっているし、そういう人たちが頑張って、世の中にとって大事なことをやっているんだよ」と、そういうことを伝えたいなって考えました。
ちょっと待ってください。「しょうもない」というところを伝えるのが大事だ、と思われたんですか。
泰:ええ。いい意味でしょうもない人が、日々頑張っている、そこが大事だと思います。
たしかに応募する側が、警察という職業に勝手にハードルを上げている面はあるのかもしれないですが、しかし……。
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