小田嶋:スマホ依存がアルコール依存と同じようにやばいとは全然思わないけど、依存というのは人間が生きていく限り必ずあるものだから、なるべく無難なものに依存しましょうね、ぐらいな問題で、依存している人は変な人だとか、依存しているからあの人はだめだ、というのはちょっと違う。

Y:なるほど。しかしスマホ中毒の弊害ってなにがありますかね。

スマホ中毒は、考える時間の消滅を呼ぶ

小田嶋:ひとつは、周りのスマホ中毒していない人にとっては実に腹立たしく見えるらしいこと。これはマナーもあるけれど、たとえば、スマホを見られない立場、たとえばドライバーにとって、歩行者や自転車に乗っている人が、スマホに夢中になっている状況を考えれば分かりますよね。運転している側からしたらめっちゃめちゃ危ない。だけど本人は気づいてもいない。

Y:ああ、うちの奥様が反スマホ派でした。「PTAのLINEグループに入れない」とぶつぶつ言いながら、いまだにガラケーです。私がリビングでスマホに触ると不機嫌で、食事中は絶対禁止。

小田嶋:時間の使い方がだらしなく見える……らしい。私は妻と、たまに外食でいい店に行ったときに、スマホを使っていたら怒られた、というか呆れられた。こんなにおいしいものを食べていながら、そんなにスマホが楽しいの、と。

 もうひとつは、時間の使い方がものすごくヘタになる。スマホを見てる時間って、モノをまったく考えていないですから。

Y:え、そうでしょうか?

小田嶋:自分は能動的に情報を探している、インプットしている、と思うかもしれませんけど、外から取り込んでいるときは、自分の思考は動いてません。プロセッサーの処理能力をダウンロードに喰われているだけですよ。だから、原稿を書くときはネット検索は出来る限りしない。

Y:なるほど……。お酒をやめられた小田嶋さんは、スマホもやめられるんでしょうかね。

小田嶋:それは分かりませんが、そういえば酒をやめるというのはどういうことなのかというのは、すごく説明しにくいんですよ。

 というのは、たばこをやめた人間はすごく多いから、何となく見当は付くと思うんだけど、最初の2週間とか3週間は手持ちぶさたでかなわないということと、たばこへの渇望があるわけです。でも、やめて半年もすれば、もう自由になれるんですよ。なんであんなに吸いたかったのか、と。

 酒についてもそれと同じ、と思っている人たちがいるんですけど、全然違う。

Y:どっちもやらないので分かりませんが、どう違うんでしょう。

断酒は失恋に似ている、かもしれない

小田嶋:どっちもやっていてどっちもやめた人間の、個人的な見解ですが、渇望感だったり肉体的な依存みたいなものは、もしかしたらたばこの方が強いんですよ。酒ってそんなに……もちろん(断酒して)最初の2~3週間というのは結構ひどいもので、禁断症状というのもあるんだけど、でももっとでっかいのは、精神的依存、のみならず、文化的依存みたいなやつなんです。

Y:文化? はて?

小田嶋:うん。これ、うまく説明できないなと思っていたんだけど、この間い思いついたのは、「失恋に似ている」ということです。

Y:失恋ですか。

小田嶋:そう。失恋と言ってもいろいろなケースがありますが、たとえば5年付き合っていた女の人と別れると。大好きだから別れるわけじゃなくて、嫌いだから別れるということもあるでしょう。

Y:まあ、あるでしょうね。

小田嶋:嫌われる場合もあるし、嫌う場合もあるし。でも多くの場合、双方がもうお互い嫌になっちゃったということがあって別れるわけじゃないですか。でも5年付き合っていたということは、まあ、普通の事じゃないわけです。せいせいする一方で、「ああいうところに行くときには、いつも一緒に彼女がいた」という実感が、自分の生活、人生の、ほぼあらゆる瞬間にある。

Y:長い時間を共有していたわけですから……。

小田嶋:そうそう。その共有を全部どけたということは。

Y:そういった経験はもうできなくなるわけだ。

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